マルチモーダルAIとは何か

マルチモーダルAIとは

マルチモーダル(Multimodal)とは、複数を意味するMultiと様式・形式という意味のModalを組み合わせた言葉です。つまり、マルチモーダルAIとは「複数の形式や種類のデータを組み合わせて処理・理解するAI」を意味します。扱われるデータは、人間の感覚になぞらえて分類されることが一般的です。その一例を以下で確認してみましょう。

カテゴリ データ形式(モード) 具体的なデータ例
言語系 テキスト チャット、メール、報告書、プログラムコード、SNSの投稿、電子書籍
視覚系 静止画(画像) 写真、イラスト、図解、スクリーンショット、レントゲン写真、衛星写真
視覚・聴覚系 動画 防犯カメラの映像、YouTube、会議の録画、スポーツの試合映像
聴覚系 音声 人の話し声、音楽、環境音(異音検知)、ポッドキャスト
物理・計測系 センサーデータ GPS(位置)、温度・湿度、加速度、LiDAR(距離)、心拍数、気圧

マルチモーダルAI以前は、テキスト専用、画像専用といった単一形式のデータごとに専用のアルゴリズムを組んで処理する「シングルモーダルAI」が主流でした。つまり、上記の表のうち一行の形式しか処理できませんでした。

シングルモーダルAIとマルチモーダルAI

それではなぜ、テキスト×動画や静止画×音声といったデータを組み合わせることが、高度な処理につながるのでしょうか。以下でその仕組みを解説します。

キーワードは『共起関係』。マルチモーダルAIが賢くなる仕組みのひとつ

共起関係とは、音声や映像、テキストといった異なる形式の情報が、同じ状況や文脈のなかで一緒に現れやすい関係を指します。例えば、「雷」という文字を認識すると、人は「稲光の映像」や「ゴロゴロという音」といったテキスト以外の複数の情報を思い浮かべるでしょう。マルチモーダルAIも人の認知に近い形で複数の情報を処理することで、雷というテキストから映像や音声などを自動的に出力できるようになります。

これにより、従来は人が行っていたラベル付け作業の負担を軽減できるほか、単一のデータからでは読み取れなかった情報を推測して導き出せる可能性も高まります。さらに「今にも雨が降り出しそうな空」といった抽象的なテキストから、画像や音声を生成・検索するといったリクエストにも対応しやすくなる点も、マルチモーダルAIが「賢い」とされる理由です。

マルチモーダルAIのメリット

代表的な技術

マルチモーダルAIはビジネスシーンはもちろん、日常生活でも浸透しつつあるサービスに使用されています。テキストのプロンプトで文章、画像、音声、コードを出力できるアプリとしては、Googleの「Gemini」、OpenAIの「GPT」などが代表例です。また、Metaも「Mango」「Avocado」といったコードネームの次世代モデルの開発を進めていると報じられており、今後の動向が注目されています。


マルチモーダルAIの課題

マルチモーダルAIには、データや技術面、運用面、そして社会・倫理面の3つの大きな課題が存在します。例えば、複数のデータが必要なマルチモーダルAIは単一のシングルモーダルAIと比べると単純に扱うデータ量が増加するため、データをそろえる大規模な計算基盤や統合パイプラインの整備には、莫大なコストが必要になるでしょう。

さらに情報を統合するプロセスもブラックボックス化しやすいうえ、ペアデータの片方の情報だけを重視してしまう「モダリティ・バイアス」が生じるリスクもあります。また、機械学習であれば確立していた評価指標もいまだに明確になっておらず、結果に対する「責任の所在」が曖昧であることも企業が導入するうえで大きな障壁になります。

また、簡単に声や見た目を模倣できるため、ディープフェイクや詐欺、なりすましなどに悪用されるケースも少なくありません。出力だけでなく、データとして学習する際の著作権に関するトラブルもモダリティが増加するほど深刻化しています。


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マルチモーダルAIの活用分野

医療

マルチモーダルAIにより、従来は診断補助までだったAIの領域を「臨床意思決定支援」まで進化させられると期待されています。例えば、CTスキャン画像と遺伝子情報、過去の治療歴を統合して分析することで、がんの超早期発見や単純な画像診断よりも精度の高い再発リスクの診断などにつなげられます。また、内視鏡画像などの視覚データと医師の診断メモといったテキストデータを統合し、AIが膨大なデータを解析して診断の補助を行うことができれば、医師がより精度の高い診断を下せるサポートになります。マルチモーダルAIの浸透には、規制やプライバシー、説明可能性といった障壁はあるものの、それらをクリアできれば個々の患者に最適な医療を提供する「パーソナライズ医療」の実現や予防医療の進展、医療従事者の負担軽減などにつながると期待されています。

製造業

製造業ではIoTやDXの一環で、カメラによる外観検査やセンサーによる異常検知などの取り組みが実施されてきました。それらはいずれもシングルモーダルAIであり、マルチモーダルAIを活用することで、より高精度かつ柔軟性のある業務遂行が可能になります。

例えば、画像と音、振動といったデータを組み合わせることで、表面のキズに加えて打検(音)や微かな揺れ(振動)を同時に解析できるようになります。そうすれば、視覚だけでは判別できない内部のクラックの発見につなげられるほか、照明の変化や騒音といった現場環境に左右されない高精度な異常検知を行うことができるでしょう。また、設備の稼働データやサーモグラフィ、温湿度のデータ、過去の修理記録(時系列データ)などを統合分析することで、自律的な予兆保全の実現も図れます。

小売業

マルチモーダルAIの活用は、ECと実店舗のいずれにおいてもユーザー体験(CX)の向上に貢献するとされています。例えばファッション業界のECでは、ユーザーの全身写真・動画データと、身長・体重などの数値を統合。さらにAIが各商品特有の落ち感やシワなどを物理シミュレーションし、超高精度なバーチャル試着をリアルタイムでできるようになります。また、顧客行動やレビュー動画、購入履歴、商品画像を統合して分析し、精度の高いレコメンデーションに基づき、まるで人間の店員のような接客も行える対話型のチャットボットが商品を提案することで、よりパーソナライズされた充実した購入体験を可能にします。

実店舗においても、SNSのトレンドや天気、地域のイベントといった情報を画像やテキストで入手し、リアルタイムの棚の空き状況と統合して分析。これにより、AIが需要予測を行い、自動発注、陳列まで担えるようになります。

自動車産業

自動車産業で注目されている「自動運転技術」において、マルチモーダルAIはとても重要な役割を担っています。特にエンドツーエンド(E2E)モデルの自動運転技術においては、カメラによる画像データとレーザー光を使って対象物の距離、形状を正確に計測する「LiDAR(ライダー)」のデータが欠かせません。さらに新たな潮流である「VLA(Vision-Language-Action)モデル」は走行だけでなく、「パトカーの音が聞こえたから路肩に車を寄せる」ほか「前方の工事看板の指示(テキスト)にしたがって迂回する」といった、さらに多くの情報を理解して人間のような判断と対応が可能になると期待されています。


FPTにおける課題解決の事例

最新のマルチモーダルAI技術を活用した「FPT.AI」は、ビジネス成長を促進する包括的なAIプラットフォームです。NVIDIAの最高品質の大規模多言語モデル(LLM)に加え、FPTが独自開発したLLMを活用し、全ての業務知識ソースと統合することで、タスクの最適化や自動モデル分析・改善を可能にする「FPT AI Agents」や、カスタマーサービスなどの業務タスクを自動化する「FPT AI Chat」といった多様なソリューションを提供しています。これにより、さまざまな産業やビジネスシーンでイノベーションを加速させる支援を行っています。主な特徴は以下のとおりです。

サービス名 主な機能・役割 主な成果・メリット
FPT AI Agents ウェブ、SNS(Messenger, WhatsApp等)での会話自動化 顧客問い合わせの80%を解決、生産性60%向上
FPT AI Voice Agents 音声ボットによる電話応対(インバウンド・アウトバウンド)の自動化 月間2,000万件以上の通話を自動化
FPT AI Mentor AIを活用した個別化・継続的な従業員トレーニング(マイクロラーニング) トレーニングリソースを80%節約、知識品質55%向上
FPT AI Enhance コンタクトセンターの全会話を評価・フィルタリング・分析 会話分析時間を70%削減、コンプライアンス問題60%削減
FPT AI eKYC デジタルプラットフォーム上でのオンライン本人確認(顔認証・不正検知) 顧客識別時間を70%削減、30秒でプロセス完了
FPT AI Read AI(LLM/VLM)による文書データ抽出(請求書、契約書、手書き文書等) 最大98%の読み取り精度、生産性80%向上

続いて、FPTのソリューションを活用した事例をご紹介します。

1. 「FPT AI eKYC」- eKYCシステムの精度強化と運用コスト削減

ベトナムの大手保険会社は、顧客、保険契約者、エージェントが使用する複数のチャネルの応答をより迅速化するため、既存のeKYC(電子本人確認)からFPT AI eKYCに移行を希望していました。FPTはモバイルおよびWebサービス向けのSDK(開発キット)を迅速に提供し、完全な統合計画とUAT(ユーザー受け入れテスト)を実施。その結果、システムの分析と移行を3週間で完了させ、FPT AI eKYCを使用して3つの主要な本人確認プロセスをすべて展開できるようになりました。さらに1カ月で2万5,000人の顧客をオンボーディングし、運用費用の65%削減にも成功。精度とセキュリティの強化、そしてコスト削減を実現しました。

FPT AI eKYC は、最新のAI技術(顔認証、ライブネス検知、不正チェック)の統合により、シームレスで安全な顧客オンボーディングプロセスを実現しています。また、データセキュリティと不正検知に関して国際的な厳格な基準(OWASPおよびISO/IEC 30107-3)に準拠しています。

2. 「FPT AI Read」- 請求書類の処理時間短縮と生産性の向上

ベトナムの大手TPA(第三者管理者)企業では、新型コロナウイルス感染症の発生に伴い、請求書類が20~50%増加。さらに複雑な情報の処理時間の増加、データの不整合や人為的エラーが増加し、機密データのセキュリティといったさまざまな課題が顕在化しました。そこで同社は、さまざまなドキュメントのデータを自動認識・抽出してデータ入力をデジタル化する「FPT AI Read」を導入しました。その結果、画像1枚あたりの処理時間を1~5秒に短縮、入力エラーを15%削減、精度95%を実現し、生産性は5倍に向上しました。

FPT AI Read は、大規模言語モデル(LLM)やビジョン言語モデル(VLM)と柔軟に統合可能で、具体的なビジネス課題に応じて対応します。特に、最先端のビジョン言語モデルとの統合により、レイアウトに依存しないドキュメント処理や優れた手書き文書の処理が可能になります。

※参考:FPT.AI


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まとめ

マルチモーダルAIは、画像、映像、音声、テキスト、センサー情報など複数のデータを統合し、より深く文脈を理解することで新たな情報を生成する技術です。すでに医療から小売業、製造業、自動車産業まで幅広いビジネスや日常生活で活用が始まっており、欠かせないものになりつつあります。今後はさらに多様なサービスでの活用が期待され、ビジネスのあり方を大きく変革する可能性は非常に高いでしょう。


FPT

この記事の監修者・著者:FPTコンテンツ制作チーム

FPTコンテンツ制作チームは、ITソリューションやデジタル技術に関する情報を発信しています。業界動向や技術トピックについて、記事の制作を行っています。
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