目次
医療AIとは何か

医療AIは、AI(人工知能)技術を医療領域に応用し、現場における医療の質向上や人手不足の解消を目指した取り組みです。活用分野は多岐にわたり、特に導入が進んでいるのはAIによる画像診断支援です。 例えば日本では、2022年度の診療報酬改定でAI画像診断支援に対する加算が新設されるなど、AI導入のための制度整備が始まっています。
医療AIの主な活用方法
医療AIの主な活用分野は、以下の6つです。
| 活用分野 | 主な活用事例 |
|---|---|
| ゲノム医療 | 遺伝子情報解析によるがん診断・治療の個別化 |
| 画像診断支援 | CT/MRI/X線画像や内視鏡映像から疾患を自動検出 |
| 診断・治療支援 | AI問診チャットによる問診支援や治療計画立案支援 |
| 医薬品開発 | 創薬データ解析や有効候補のスクリーニング支援 |
| 介護・看護 | 見守りロボットやケアプランの自動作成 |
| 手術支援 | ロボット手術システムや術中画像ナビゲーション支援 |
1. ゲノム医療としての活用
ゲノム医療の分野では、AIは膨大な遺伝子情報を解析するパートナーとして活用されています。患者ごとに異なる遺伝子の変異パターンをAIが素早く読み解き、病気の原因になっている可能性の高い部分を絞り込むことで、診断や治療方針の検討を効率化できます。特にがん領域では、分子標的薬との相性や副作用リスクなどを総合的に評価し、「この患者にはどの治療が適しているか」を考える材料を提供します。こうしたAIの活用により、同じ病名でも一人ひとりに合わせた個別化医療を進めやすくなっているのが大きな特徴です。
2. 画像診断支援としての活用
画像診断は、医療AIのなかでも特に実用化が進んでいる領域です。CTやMRI、X線などの画像データをAIが学習しておくことで、がんや肺炎、脳梗塞などの病変らしき部分を自動でマーキングし、「見落としそうな異常がないか」をチェックします。医師はAIの結果を参考にしながら最終判断を行うため、診断精度の向上と読影時間の短縮の両方が期待できます。また、医師の経験年数に左右されにくい点もメリットで、専門医が限られる地域や時間帯でも、一定レベル以上の診断を維持しやすくなります。
3. 診断や治療支援としての活用
診断や治療支援の分野では、AIは「判断を代わりに行う」存在ではなく、「より良い判断をするための材料を増やす」役割で活用されています。問診内容や検査データ、既往歴などをAIが整理・分析し、考えられる病名の候補や、見逃しやすい疾患をリストアップします。医師はそれらの情報を踏まえながら、実際の診察所見と組み合わせて最終判断を行います。また、治療の場面では、似た症例のデータをもとに薬の効果や副作用の出方を予測し、治療方針を検討する参考情報として活用されるケースも増えています。
4. 製薬分野での活用
製薬分野では、AIは新薬候補の「探し方」を大きく変えつつあります。従来は研究者が膨大な化合物から地道に候補を選び出していましたが、現在はAIが過去の実験データや論文情報をまとめて学習し、「有望な化合物の組み合わせ」や「効きそうな作用メカニズム」を候補として提示します。これにより、探索にかかる時間が短縮されるだけでなく、従来の発想ではたどり着けなかった候補が見つかる可能性も高まっています。また、臨床試験の設計や副作用の出やすさの予測などにもAIが使われ始めており、開発の成功率を高める取り組みが広がっています。
5. 介護分野での活用
介護の現場でも、AIは「人手不足を補いながら、ケアの質を落とさない」ためのツールとして期待されています。見守りカメラやセンサーのデータをAIが解析し、転倒の危険が高い動きや、夜間の徘徊傾向などを早めに察知してスタッフに通知する仕組みがその一例です。また、介護記録を自動で整理したり、過去のデータからその人に合ったケア内容を提案したりするシステムも登場しています。こうしたAIのサポートにより、職員が記録作業に追われる時間を減らし、その分を対話や見守りといった「人にしかできないケア」に振り向けることが可能になります。
6. 手術支援としての活用
手術支援の領域では、AIは外科医の「目」と「考え方」を補う役割を担っています。内視鏡やカメラから映し出される映像をAIがリアルタイムに解析し、臓器の境界や重要な血管の位置を分わかりやすく表示することで、「どこまで切除してよいか」「どのラインは避けるべきか」といった判断をサポートします。また、過去の手術データをもとにしたシミュレーション機能を使えば、事前にリスクの高いポイントを把握したうえで手術計画を立てることも可能です。これにより、経験の浅い医師でも、安全性の高い標準的な手術に近づきやすくなることが期待されています。
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医療現場にAIを導入する目的
医療現場にAIを導入する主な目的としては、以下が挙げられます。
| 目的 | 説明 |
|---|---|
| 新たな診断方法や治療方法の創出 | AI解析による診断精度の向上と、患者データの総合分析を通じた個別最適な治療法や薬剤の提案を実現する |
| 全国どこでも最先端の医療を受けられる環境の整備 | 遠隔診療やAI診断技術を活用し、地方や高齢者施設でも専門医レベルの診療を受けられる環境を整える |
| 患者の治療等に専念できるよう、医療・介護従事者の負担軽減 | 定型業務や事務処理をAIで自動化し、カルテ作成やレセプト処理などを効率化することで、患者と向き合う時間を創出する |
1. 新たな診断方法や治療方法の創出
1つ目の目的は、新たな診断方法や治療方法の創出することです。AIによって診断の精度と医療の安全性を高めるとともに、個別化医療や予防医療のための土台づくりを進めます。
AIは過去の膨大な症例データからパターンを学習し、人間の目だけでは見落としがちな微妙な変化も検出できるため、早期発見や誤診の防止につながります。また、患者の年齢や性別、既往歴だけでなく、生活習慣データやゲノム情報まで含めて総合的に分析することで、「この人にはどの治療が合うのか」「どのような生活指導が有効か」といったきめ細かな判断が可能になります。これらのデータは量も種類も膨大なため、AIがデータの整理と分析を担うことで、医療現場はより精度の高い個別化医療を実現しやすくなるでしょう。
2. 全国どこでも最先端の医療を受けられる環境の整備

2つ目の目的は、地域や施設間の医療格差を埋めることです。専門医が少ない地域や、小規模な病院・クリニックでは、高度な検査や診断を行うためのリソースが不足しがちだからです。
画像診断AIや遠隔診断支援システムを導入すれば、地方で撮影した画像をAIが解析し、その結果をもとに都市部の専門医が助言する、といった連携も容易になります。こうした仕組みを整えることで、「どこに住んでいても一定水準の医療が受けられる」環境づくりを後押しできる点は、AI導入の大きな意義と言えます。
3. 患者の治療等に専念できるよう、医療・介護従事者の負担軽減
3つ目の目的は、医療従事者の業務負担を減らし、時間の使い方を変えることです。問診内容の整理やカルテ入力、検査結果の確認など、診療の裏側には多くの「事務的な作業」が伴います。
AIがこうした定型業務を代行・補助することで、医師や看護師は、より専門性の高い診療や患者との対話に時間を割けるようになります。結果として、残業時間の削減や、燃え尽き症候群の防止にもつながり、医療現場全体の持続可能性を高めることが期待されています。
現在の日本の医療AI導入率
日本の医療AI導入率は、2023年時点で20.6%となっています。AI医療機器の用途は、多い順に画像診断支援(10%)、ゲノム医療支援(7.5%)、診断・治療支援(7.1%)となっています。また、導入施設は大学病院や国立病院といった大病院が大半を占めています。一方、民間の医院・診療所が「いずれも導入していない」と回答しており、導入実績の格差が明らかになっています。
医療AI導入における現在の課題
現状では医療現場でAIを導入する際には、いくつか課題があります。主なものは以下のとおりです。
| 課題 | 概要 |
|---|---|
| 高額な導入コスト | AI導入・維持に多額の投資が必要であり、費用対効果が見えにくい |
| AIの信頼性 | AIの判断根拠の不透明性や精度の維持 |
| 法制度・運用リスク | 法規制や個人情報保護への対応、継続的な運用体制の構築 |
1. 高額なコスト
1つ目の課題は、導入コストや制度面を含めた「続けられる仕組みづくり」が難しいことです。AIシステムそのものの費用に加え、サーバーやネットワーク、セキュリティ強化、スタッフの研修など、見えにくいコストも多く発生します。規模の小さい病院やクリニックでは、こうした投資に踏み切れないケースも少なくありません。また、医療AIの多くは医療機器としての承認やガイドラインとの整合性が求められ、法規制の変化も踏まえた運用が必要です。技術の変化が速い一方で、制度や現場の体制はすぐには変えられないため、両者のギャップをどう埋めるかが大きなテーマになっています。
2. AIの信頼性
2つ目の課題は「AIの判断をどこまで信頼できるか」という問題です。ディープラーニングを活用したAIは高い精度を出せる反面、「なぜその結果になったのか」が分かりにくい、いわゆるブラックボックスになりがちです。そのため、医師がAIの提示した結果を検証しづらく、「本当にこの結果を信じてよいのか」という不安が残ります。また、学習に使ったデータに偏りがあると、特定の年齢層や疾患に対して誤った判断を下すリスクもあります。現場で安心して使っていくためには、AIの推論プロセスを可視化する技術や、定期的な精度検証の仕組みづくりが不可欠です。
3. 法制度・運用リスク
3つ目の課題は医療AIのガイドラインがまだ整備途上であり、要件が曖昧な部分が多いことにより、運用リスクが伴うことです。また、医療情報は日本の個人情報保護法の中でも特に厳格に扱われる「要配慮個人情報」に該当するため、流出や悪用のリスク対策にも注力する必要があります。さらに誤作動、精度の劣化、ブラックボックス化による説明責任への対応が難しいなど、発展途上の技術ならではのリスクも存在します。
FPTは、豊富な経験とAI/ML、クラウド、IoTなどのテクノロジーを活かし、医療業界の変革を支え、患者体験を向上させるソリューションを提供します
医療AIを現場で活用する5つのメリット
医療AIの導入には多くのメリットがあります。代表的な5つのメリットを以下にまとめました。
| メリット | 概要 |
|---|---|
| 診断精度の向上 | AIと医師のダブルチェックで診断精度が飛躍的に向上し、病変の見落としが減る |
| 医療従事者の負担軽減 | 事務作業やサポート業務をAIが代替し、医師・看護師の業務負担が大幅に軽減される |
| 業務効率化 | カルテ作成やレセプト処理を自動化して業務を効率化し、コスト削減につながる |
| ヒューマンエラー防止 | AI支援により見落としや投薬ミスを大幅に減らし、医療安全性を向上できる |
| 地域医療格差の解消 | 遠隔診療技術で専門医不在地域でも高度な診療が可能となり、医療格差の解消に大きく貢献できる |
1. 診断精度の向上

AIを活用した診断支援は、医師だけでは気づきにくい微小な病変や異常パターンを拾い上げるため、診断の精度を大きく高める効果があります。特に画像診断では、AIが過去の膨大な症例データを学習しているため、専門医と同等、あるいはそれ以上の精度を示すケースも報告されています。結果として、見落としの減少や早期発見につながり、治療成績の向上にも寄与しています。
2. 負担軽減
AIが定型的な事務作業を担うことで、医師や看護師が日常的に抱えている業務負荷を大幅に軽減できます。例えば、看護記録の作成、検査データの整理、レセプト処理などにかかる時間を短縮でき、スタッフは本来もっと時間を割きたい患者対応やケアに集中できるようになります。こうした負担軽減は、働き方改革の観点からも非常に重要で、医療現場の疲弊を防ぐ効果が期待されています。
3. 業務効率化
カルテ作成や検査データの解析といった繰り返し作業をAIが自動化することで、医療現場の業務効率は大きく向上します。手作業が減ることで業務のばらつきが少なくなり、スピードと正確性が安定します。また、医療機関全体の運営コストの削減につながる点も見逃せません。スタッフ同士の連携や情報共有もしやすくなり、組織全体の生産性向上に寄与するメリットがあります。
4. ヒューマンエラー防止
AIによる診断支援は、医師の見落としや入力ミス、判断のブレといったヒューマンエラーを事前に防ぐ手段として有効です。例えば画像診断では、人間の目では見逃しかねない小さな病変をAIが検出し、注意すべきポイントを提示します。投薬量の提案や検査値の異常アラートなども合わせて活用すれば、医療安全性がさらに高まり、患者にとっても安心できる診療環境が整います。
5. 地域医療格差の解消
AIを活用した遠隔診療や24時間体制の診療サポートは、都市部と地方の間にある医療格差を縮小するうえで大きな力を発揮します。地方の小規模病院でもAIの診断支援を利用することで、高度な専門医の診療に近いレベルの医療サービスを受けられるようになります。また、専門医が不足している地域でも質の高いケアを提供しやすくなり、全国どこでも同水準の医療を目指せる点が大きなメリットです。
医療AIを現場で活用する3つのデメリット
一方で、医療AI導入には注意すべきデメリットもあります。
| デメリット | 概要 |
|---|---|
| 高コスト | AI機器の導入・維持には多額の投資が必要で、中小病院では負担が大きい |
| データ・セキュリティ対策 | 患者データを扱うためプライバシー保護や情報セキュリティ対策が必須 |
| システム障害リスク | 故障時には診療が停止するリスクがあり、バックアップ体制の整備が不可欠 |
1. 高コスト
課題の章でも触れたとおり、AI機器の導入には高額な初期費用が必要で、医療AIは関連機器そのものが数千万円規模になるケースも珍しくありません。さらに、運用を続けるには定期的な保守やシステムのアップデート費用もかかり、想定以上のランニングコストが発生します。特に予算が限られる中小規模の医療機関の場合、投資回収が難しく、導入に踏み切れない大きな理由となっています。
2. データ・セキュリティ
AIを医療分野で活用する際には、患者の診療データや画像データといった高度な個人情報を扱うため、徹底したプライバシー保護とセキュリティ対策が欠かせません。データの匿名化、暗号化、アクセス権限の管理など、通常の医療システム以上の安全対策が求められます。その結果、導入コストに加えて運用負荷も増すため、現場では慎重な対応が必要となります。
3. システム障害リスク
AIは便利な一方で、機械である以上、故障や通信トラブルによって突然利用できなくなる可能性があります。特に手術支援AIや遠隔診療など、AIの依存度が高い場面では、システム障害が発生すると診療の中断や安全性への影響が大きくなる懸念があります。そのため、バックアップ機器の準備や24時間の運用監視など、安定稼働を支える体制づくりが欠かせません。
医療AIのこれから
医療AIは今後も進化し、医師の診断・治療をサポートするツールとして発展することが期待されます。患者の遺伝情報を活用した個別化医療がさらに進展し、生成AI、5G、IoTやウェアラブル機器との連携で遠隔医療サービスが拡充していく見込みです。一方でAI活用の拡大に伴い、法規制や倫理面での整備も進められており、安全で信頼性の高い運用環境づくりが今後の鍵となります。
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まとめ
AI導入は診断精度の向上や医師の負担軽減といった大きなメリットをもたらしますが、高コストやデータ・セキュリティなど解決すべき課題も少なくありません。これらの課題を乗り越えて医療AIを活用することで、より良い医療提供が実現し、患者中心の医療の実現につながることが期待されます。
この記事の監修者・著者:FPTコンテンツ制作チーム
FPTコンテンツ制作チームは、ITソリューションやデジタル技術に関する情報を発信しています。業界動向や技術トピックについて、記事の制作を行っています。
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