ADASの基礎知識

ADAS(エーダス)とは、「Advanced Driver-Assistance Systems」の略称で、車両に搭載されたセンサーやコンピューターなどを用いて運転者の操作を支援する先進的なシステムの総称です。日本語では「先進運転支援システム」と呼ばれます。

ADASは、前走車との車間距離に応じて速度を調整する機能や、衝突リスクを検知した際にブレーキを作動させる機能など、多種多様な機能を通じて、事故リスク低減や運転負荷軽減などを実現します。現在、自動車業界で注目を集めている技術の一つです。

ADASの基礎知識

ADASの特徴

人は自動車を運転するとき、次のように「認知」「判断」「操作」の3つの動作を連続して行っています。

  • 認知:車線、車両、歩行者、標識などを認知する
  • 判断:認知した情報をもとに、進路方向や加減速などを判断する
  • 操作:判断した情報をもとに、アクセル、ブレーキ、ステアリングを操作する

ADASの特徴は、これらの動作を技術によって支援する点にあります。

ADASの性能と仕組み

ADASでは、「認知」→「判断」→「操作」のプロセスをシステムが瞬時に実行します。

  • 認知:車両に搭載されたセンサーが、周囲の状況をリアルタイムで認知する(人間の視界では見落としやすい領域も含む)
  • 判断:センサーから得られた情報を車両に搭載されたコンピューターで分析・処理する
  • 操作:ブレーキ、アクセル、ステアリングを制御したり、警告音やディスプレイ表示で運転者に通知したりする

このプロセスを常時実行することで、結果的に事故リスク低減や運転負荷軽減などを実現します。


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ADAS(先進運転支援システム)とAD(自動運転)の違い

ADASと似た概念にADがあります。ADとは「Autonomous Driving」の略称で、日本語では「自動運転」という意味です。ADASとADは混同されやすいですが、明確な違いがあります。

ADASの主体は運転者です。運転者の意思を優先しつつ、運転者を支援することを目的としています。一方で、ADの主体はシステムです。運転者が運転に関与しなくても、システムにより目的地まで移動することを目的としています。

ADASは、あくまで運転者の操作を支援する技術であり、運転者が責任を持つことが前提となっています。

運転レベルとは

ADASとADの違いについて理解するうえで重要な概念として、「自動運転レベル」があります。

自動運転レベルとは、アメリカの自動車技術会が定義した、自動運転の度合いを段階的に示した基準のことです。日本でも国土交通省がこの基準を採用しています。

レベル 名称 定義概要 安全運転に係る監視と対応主体
0 自動運転なし 運転者が全ての動的運転タスクを実行 運転者
1 運転支援 システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行 運転者
2 部分運転自動化 システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行 運転者
3 条件付運転自動化 システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行
作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に適切に応答
システム(作動継続が困難な場合は運転者)
4 高度運転自動化 システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行 システム
5 完全運転自動化 システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を無制限に(すなわち、限定領域内ではない)実行 システム

自動運転レベルは、完全手動運転の「レベル0」から完全自動運転の「レベル5」まで6段階に分類され、一般的にはレベル1~2がADASと、レベル3以上がADと位置づけられます。


ADASが重要視されている背景

近年、自動車業界でADASが注目されている背景には、さまざまな社会的課題があります。

まず挙げられるのが、交通事故リスクです。日本では高齢化が進むにつれ、判断力や操作ミスによる交通事故が増加していますが、ADASはこのリスクを低減する手段として期待されています。もちろん、高齢化の問題に限らず、交通事故は社会全体で可能な限り減らしていくべき課題です。

また、運転者不足の課題も背景にあります。深刻な運転者不足が続く物流業界や公共交通業界では、ADASによる運転負荷軽減効果が、労働環境の改善や業務効率の向上につながると期待されています。

さらに、環境負荷の課題も背景にあります。ADASによる無駄の少ない加速・減速制御は燃費の向上につながり、結果としてCO₂排出量の削減にも寄与すると考えられています。


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ADASの主な機能

ADASの主な機能

1. ACC(車間距離制御装置)

ACCとは、「Adaptive Cruise Control(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」の略称で、前走車との車間距離に応じて速度を調整する機能のことです。日本語では「車間距離制御装置」と呼ばれます。

ACCでは、運転者がアクセルやブレーキを操作しなくても、前走車の速度変化に応じて減速・加速を行い、適切な車間距離を維持します。前走車の停止・発進にまで対応するタイプもあります。ACCは、特に高速道路での長距離運転や渋滞時の低速走行などにおいて、運転者の負担軽減に大きく貢献します。

2. LKAS(車線維持支援システム)

LKASとは、「Lane Keeping Assist System(レーンキープ・アシスト・システム)」の略称で、車線中央付近の走行維持を支援する機能のことです。日本では「車線維持支援システム」と呼ばれます。

LKASでは、車両がウインカーを出さずに車線から逸脱しそうになった際、ステアリング操作を補正して車線中央付近へ戻るよう支援します。LKASは、特に高速道路での長距離運転などにおいて、運転者の負担軽減に大きく貢献します。

3. AEBS(衝突被害軽減ブレーキ)

AEBSとは、「Advanced Emergency Braking System(アドバンスト・エマージェンシー・ブレーキング・システム)」の略称で、前走車や歩行者、障害物などとの衝突リスクを検知したときに自動ブレーキを作動させる機能のことです。日本では「衝突被害軽減ブレーキ」と呼ばれます。

国土交通省は2020年1月、2021年11月以降に発売される新車に対して、このAEBSの搭載を義務付けました。

4. TSR(道路標識認識)

TSRとは、「Traffic Sign Recognition(トラフィック・サイン・レコグニション)」の略称で、交通標識を認識し、運転者に情報を提供する機能のことです。日本語では「道路標識認識」と呼ばれます。

TSRは、速度制限や一時停止、追い越し禁止、進入禁止などの標識を認識し、ディスプレイなどに表示します。また、運転者が標識に反する行為を行った場合に警告を出すタイプもあります。

5. DM(ドライバーモニタリング)

DMとは「Driver Monitoring(ドライバーモニタリング)」の略称で、運転者の状態を常時監視する機能のことです。

運転者の顔の向きや表情、ハンドル操作などを監視し、居眠り運転や脇見運転、スマホ操作といった危険行為が疑われる場合に警告を出します。また、顔認識機能を活用して、ドライバーごとにシートポジションやミラー角度、空調設定などを自動調整するタイプもあります。

6. APA(高度駐車アシスト)

APAとは「Advanced Parking Assist(アドバンスト・パーキング・アシスト)」の略称で、駐車時の操作を支援する機能です。日本語では「高度駐車アシスト」と呼ばれます。

APAでは、システムが自動的にステアリング操作を行うため、運転者はアクセルとブレーキの操作のみで駐車できます。アクセル・ブレーキも自動操作するタイプもあります。APAにより、駐車が苦手な運転者でも、スムーズかつ安全に駐車を行えます。


ADASを実現するために必要な技術

1. センサー

ADASは、車両周囲の状況を把握するために複数のセンサーを使用します。主なセンサーは次のとおりです。

・カメラ

カメラは車線や車両、歩行者、標識などの検出・認識に用いられ、人間の目に近い働きを期待できます。ただし、悪天候時や夜間にはその精度が低下しやすいという弱点があります。

・レーダー

レーダーとは、電波を使って物体との距離を測定するセンサーのことです。車載用としてはミリ波レーダーと呼ばれるものが主流です。カメラと比べて、天候や昼夜の影響を受けにくいという特徴があります。

・LiDAR

LiDAR(ライダー)とは、「Light Detection and Ranging」の略称で、光を使って物体との距離を測定するセンサーのことです。ミリ波レーダーよりも性能が高く、物体の形状や位置を立体的に把握できます。ただし、コストが高いという弱点があります。

2. ECU

ECUとは、「Electronic Control Unit」の略称で、自動車のエンジンやトランスミッション、ブレーキなどの各システムを電子的に制御するコンピューターのことです。日本語では「電子制御ユニット」と呼ばれます。

現代の自動車には多数のECUが搭載されており、ADASに関わるECUにおいては、センサーデータを収集・処理し、車両制御装置や表示装置などに指示を出す役割を担います。ADASの高度化に伴い、従来よりも高い演算能力やリアルタイム性が求められるようになってきています。

3. HMI

HMIとは、「Human Machine Interface(ヒューマンマシンインターフェース)」の略称で、人間と機械が情報をやり取りするための手段や仕組み、装置の総称のことです。

ADASは運転者の操作を支援するシステムであるため、このHMIの品質が安全性や使い勝手を大きく左右します。基本的には、直感的にわかりやすく、かつ負担やストレスのないHMIが求められます。

4. V2X

V2Xとは、「Vehicle-to-Everything」の略称で、車両が通信を介して他の車両や歩行者、信号機、交通インフラなど、周囲のあらゆる対象と情報をやり取りし、相互に連携する技術のことです。

ADASは、主に車両に搭載されたセンサーによって周囲を認識しますが、センサーには死角や認識範囲の限界があります。しかし、V2Xを用いれば、通信を通じて“センサーでは把握できない領域の情報”を得られるため、センサーのみでは対応できない状況にも備えられます。例えば、見通しの悪い交差点における歩行者の接近情報などを事前に得ることで、より安全な走行につながると期待できます。


ADASの実際の導入事例

導入事例:日産自動車

日産自動車株式会社は、「ProPILOT(プロパイロット)」というブランド名でADAS技術を展開しています。ProPILOTは、ACC(車間距離制御)とLKAS(車線維持支援)を統合したシステムにより、運転中の車間維持・車線維持を一貫して支援し、運転者の操作負荷を大幅に軽減します。さらに、一部車種に搭載されている上位版「ProPILOT 2.0」では、より高度なセンサーと3D高精度地図データにより、ハンズオフドライブを可能としています。

導入事例:マツダ

マツダ株式会社は、「i-ACTIVSENSE(アイ・アクティブセンス)」というブランドでADAS技術を展開しています。同社のADAS技術は、「危険な状況に陥ってから対処するのではなく、危険自体を回避する」という安全思想に基づいています。特に、DM(ドライバーモニタリング)に力を入れており、ヒューマンエラーによる事故リスクを低減する取り組みを継続的に行っています。ADASをほぼ全車種に標準搭載している点も大きな特徴です。

導入事例:SUBARU

株式会社SUBARUは、「EyeSight(アイサイト)」というブランドでADAS技術を展開しています。EyeSightの強みはカメラ認識技術です。ステレオカメラを中心としたシステムにより、人間の目と同じように視差を利用した立体視が可能で、あらゆる対象を高精度にセンシングします。また、SUBARUは長年にわたり衝突安全分野に注力しており、EyeSight搭載車は追突事故や歩行者事故の発生率を大幅に抑制していると発表しています。


ADAS搭載車の市場動向とこれから

ADAS搭載車の市場動向とこれから

ADASおよびADの市場は、これからどのように成長していくのでしょうか。

株式会社矢野経済研究所は、2023年時点のADAS・AD世界搭載台数は5,355万台でしたが、2030年には7,165万台、2035年には8,399万台まで増加すると予測しています。

また、現在はレベル1とレベル2が主流でレベル3以上はごくわずかですが、2030年にはレベル3が336万台に、レベル4が80万台に増加すると予測しています。

これからADASおよびADが進化・普及していくとした場合、社会はどのように変わるのでしょうか。

ADASの進化・普及により、交通事故の減少、物流・公共交通運転者の労働環境改善、環境負荷の抑制などのメリットがもたらされると期待されています。

さらに、ADの進化・普及により、自動車通勤者の可処分時間増加、高齢者や障害者など移動弱者の外出機会拡大、低料金で利用できるタクシーや宅配サービスの普及などのメリットがもたらされると期待されています。


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まとめ

ADAS(先進運転支援システム)は、運転者の操作を支援する先進的なシステムの総称です。運転者の「認知・判断・操作」を支援し、安全性や快適性の向上に大きく貢献します。近年、多くの新車にこのADASが搭載されるようになりました。

そして、ADAS技術はAD(自動運転)技術の基盤でもあります。今後、ADASの進化・普及とともに、ADの進化・普及も進んでいくでしょう。

そのメリットとして、交通事故の減少、環境負荷の抑制、移動弱者の外出機会拡大、低料金タクシー・宅配サービスの普及などが挙げられます。こうした多面的なメリットを踏まえると、ADASの動向には今後も注目が集まるでしょう。


FPT

この記事の監修者・著者:FPTコンテンツ制作チーム

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