2025年の崖の概要とDXの重要性

「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」に記載された「DX推進を阻む既存システム」のことです。同レポートでは、老朽化・複雑化した既存のITシステムであるレガシーシステムがDX推進の大きな阻害要因とされています。近年、データやデジタル技術を活用した経営改革であるデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性はますます高まっており、2025年以降はその経済損失が最大12兆円にもおよぶとの試算もDXレポートに記載されています。

2025年の崖の概要とDXの重要性

2025年がタイムリミットになっている理由

前述のとおり、2018年時点ではおよそ4兆円程度だった経済損失が、2025年を境に約3倍にまで増大するとされています。その理由としては、大手企業が運用している「既存の基幹システムのサポート終了」と「IT人材の引退による人手不足」が挙げられます。

SAPが提供するERPソリューションは、日本において非常にメジャーな統合基幹システムです。その6.0バージョン以降の保守サポート期限は、2018年当時では2025年とされており、対策が求められていました。2025年11月現在、サポート期限は2027年に延長されているものの、本質的な課題解決には至っていません。

また2025年の崖は、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる「2025年問題」にも深く影響を受けています。経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、2025年には最大43万人、2030年には最大79万人ものIT人材が不足するとされています。このように、旧来のシステムの運用を担ってきた技術者が引退し、特に既存システムで使用されてきたプログラミング言語「COBOL(コボル)」を扱える人材が現場からいなくなることは、企業にとって大きな痛手になり得るのです。


DX推進が企業の課題となっている理由

デジタル化によって産業構造が変化するなか、企業が生き残るために重要なのがDX推進による経営改革です。一方、前述したレガシーシステムの見直しやIT人材の確保が不十分であれば、不利な状況はさらに深刻化する可能性があります。そのため、2025年の崖を乗り越えてDXをいかに推進するかが、企業にとって大きな課題となっているのです。

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2025年の崖で提示されている現在のDX推進の課題

既存システムの「レガシー化」

レガシーシステムとは、複雑化・ブラックボックス化してしまった既存システムを指します。DXを推進するためには、解決すべき課題や達成すべき目標に適したシステム構築やツールの導入が必須です。レガシーシステムを主とした硬直的なシステム構造は、新たなビジネス要件や技術の変化への柔軟な対応が難しく、結果としてDX推進における大きな足かせとなっています。

IT人材資源の不足と浪費

レガシーシステムの保守・運用は属人的で効率化が図りにくく、大きな人的コストを要するケースが少なくありません。IT人材不足が顕著な状況の中、DX推進に必要なIT人材をルーティン業務に割かざるを得ず、新たな取り組みに十分なリソースを充てられないことも大きな課題といえるでしょう。

維持コストの増大

DX推進にはヒト・モノ・カネといった経営資源が欠かせません。レガシー化したシステムは、複雑化による保守・運用コストに加え、古い技術に精通した専門家への人件費、改修や追加開発のコストなどが増加しやすい傾向にあります。このような長期的に膨らんだ維持管理費である「技術的負債」がIT予算を圧迫することも、現在のDX推進における課題の一つです。

セキュリティリスクの高まり

レガシーシステムのサポートが終了すると、セキュリティアップデートが行われなくなるため、自社のセキュリティリスクが高まります。また、IT人材の不足によって保守・運用が劣化することも、不十分なサイバー攻撃対策やインシデント対応の遅れにつながり、情報漏洩や不正アクセスのリスクを高めてしまいます。

データ活用が困難

DX推進には全社的なデータ収集・分析・活用が欠かせません。しかしレガシーシステムの多くは事業部門ごとに個別最適化されており、部門横断的なデータ活用が難しい環境になっていることも珍しくありません。2025年の崖では、基盤システムから見直すことでこうした課題を解消すべきとされています。

デジタル市場・サービスの急激な変化

デジタル市場やサービスの発展は著しく、DXを推進するうえでも導入時期や運用に適したテクノロジー・サービスを選定するハードルが高まっています。また、ツールやシステムだけでなく、開発手法やベンダーの開発環境など、関連情報のキャッチアップも重要になっています。


現在の日本企業のDX推進動向

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」によると、日本におけるDXの取り組みは他国と比べて進んでいるとされています。具体的には「何らかの形でDXに取り組んでいる」と回答した企業は全体の77.8%を占めており、ドイツよりも高く米国と同程度であることが明らかになっています。

一方、2023年からの伸び率は鈍化しており、事業規模別にすると日本は特に1,000人以上の大企業がDXの推進に注力しており、中小企業は米国やドイツと比較すると積極的ではないことも示されています。


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DX推進のメリット

DX推進が大企業を中心に浸透しつつある背景には、2025年の崖への対応だけでなく、DXが企業経営において大きなメリットをもたらすことが広く認知されている点も挙げられます。

適切にDXを推進できれば、業務のデジタル化による「生産性の向上」、迅速かつ的確な分析・予測による「市場ニーズへの適応力の強化」、他社との差別化を図りやすくする「競争優位性の獲得」、そして「新たなビジネスモデルの構築」へつなげることができ、事業の発展・継続性を高められます。


2025年の崖の課題が解決できずDX推進が進まない原因

経営戦略・ビジョンが描き切れない

2025年の崖を解決しDXを推進するためには、経営層がデジタル技術を用いてどのように既存ビジネスを刷新するかという経営戦略を描かなければなりません。DX戦略は経営戦略があってこそ成り立つものです。そのため、2025年の崖に対する正しい理解と危機意識を持たなければ、問題を把握して克服するための施策を実行することは困難でしょう。このような状況でDXに取り組んでもその効果は限定的となり、費用対効果が得られないリスクが高まります。

現場の理解が得られずに抵抗される

既存システムの見直しや業務フローそのものを変革してDXを推進するためには、経営層やマネジメント層だけでなく、現場の理解も不可欠です。レガシーシステムからの脱却には、新たな知識やスキルの習得が必要になることも少なくありません。これを負担と捉える従業員が「抵抗勢力」となり、DX推進力の低下につながるおそれがあります。

既存システムの刷新に対する社内関係者の意識が薄い

DXレポートでは、レガシーシステム刷新における各関係者が「果たすべき役割を担えていないおそれがある」と指摘しています。経営者は強いコミットメントを示せておらず、情報システム部門は社内の意見を十分に集約できずベンダーの提案を鵜呑みにしがちです。さらに事業部門はオーナーシップ(当事者意識)を持たず、できあがったシステムに不満を述べるだけになってしまうケースも指摘されています。

ユーザー企業とベンダー企業の希薄な関係性

レガシーシステムが生まれた背景には、ユーザー企業がベンダー企業に自社システムをその都度「丸投げ」していた状況も関わっています。ベンダー企業に依存し、要件定義や運用設計が不十分だと、導入後に自社の環境や目標に適したシステムが構築できないリスクが高まります。

人材不足

DX推進には、新しいテクノロジーを使いこなせる人材はもちろん、DX推進の中心となり経営層と事業部門の「橋渡し役」となる人材も必要です。人材不足が著しい昨今、エンジニアや専門職、マネジメント層に加え、DX推進に関わる人材を十分に確保できる企業は多くありません。


2025年の崖の課題を解決しDX推進を進める方法

経営層のコミットメントとガバナンスを強化

2025年の崖は経営課題であることを経営層が認識・共有し、DXを企業戦略の中心に据えられるよう、強力なコミットメントを発揮できるようにビジョンと指標を明確にしましょう。そのためには、技術的負債の程度などの情報資産や既存システムの実行プロセスを把握し、刷新体制に関わる「見える化」の指標を策定してガバナンスを強化することが重要です。

データ基盤の構築とレガシーシステムのモダナイズ

データ活用の土台を整備するには、レガシーシステムの刷新が必要です。特にサイロ化されたデータを統合し、事業判断に使えるレベルまで整備しましょう。また、レガシーシステムのモダナイズは、ブラックボックス化した業務内容の把握に時間がかかることや業務遅延、コスト・リスクの観点から、段階的に進めることが推奨されます。例えば、アプリケーションの大幅な変更を避けてクラウド移行する「リホスト」や、レガシーシステムの一部機能を「APIとして外付けする」などの選択肢が考えられます。

社内人材の育成

DX推進には、企画を担うビジネスとITの知識を併せ持つ「ハイブリッド人材」、導入したツールやシステムを運用する「実務者」、データ分析などを行う「専門技術人材」が重要です。必要なスキルや熟練度は企業によって異なりますが、全社的なリテラシー教育や業務部門向けの実践的なシステム運用研修、DX推進リーダーの育成など、目的に応じた継続的な育成計画が必要です。

ベンダー企業との新たな関係を構築する

前述のとおり、自社のDX推進において従来のベンダーとの関係性が必ずしも最適だとは限りません。例えばDXプロジェクトでは柔軟性が重要であり、スモールスタートが適している企業も多くあります。このようなケースでは、従来型の請負契約によるウォーターフォール開発では仕様変更が難しく、対応が遅れるリスクが高まります。そのため、アジャイル開発を提供するベンダーと準委任契約や成果ベース契約を結ぶことも選択肢となります。

業務プロセスの見える化と標準化

業務効率化は、業務情報を「見える化」し、組織全体で共通のマニュアルを作成して属人化を解消する「標準化」を実現した後に自動化を進めるのが一般的です。標準化の一環である「業務プロセスの最適化(BPR)」が実現できれば、そのプロセスに基づいて新しい基盤システムの要件定義がしやすくなるため、2025年の崖の脱却という観点でも重要な取り組みとなります。

外部リソース(パートナー)の有効活用

DX推進のすべてを社内で完結できる企業は多くありません。システムベンダー企業だけでなく、DX推進を伴走支援してくれる外部リソースも多数存在します。「自社事業への理解が深い」パートナーを有効活用できれば、DXを強力に推し進めることができるでしょう。また、ユーザー企業が主体性を持って外部パートナーと共創意識を高め、情報共有と密なコミュニケーションが取れる関係性を構築することも大切です。


DX推進に適応できる人材を育成するポイント

ビジネスとテクノロジーの「理解者」を育てる

DXで特に不足しがちなのが、ビジネス課題の解決手段としてテクノロジーを活用できる人材です。基礎的なリテラシーの底上げやワークショップによるBIツールなどのスキル習得はもちろん、課題を定義し、論理的思考に基づいてプロジェクトを推進できる人材の必要性が高まっています。非エンジニアであっても、業務知識が深い社員をデジタル領域へ育成することでハイブリッド人材の確保を図っている企業も多くあります。その際は、IPAの「ITスキル標準」や「情報処理技術者試験」、経済産業省が実施する「第四次産業革命スキル取得講座認定制度」の活用も検討してみてください。

OJTとアジャイル開発

従来業務のやり方や担当者のマインドセットを一朝一夕で変えることは困難です。そのため、OJTやアジャイル開発を通じて「小さな実践と成功」を積み上げられる教育体制を構築することも有効でしょう。システム開発においては、アジャイル開発を通じてベンダー企業がユーザー企業の業務理解を深めやすくなるメリットがあります。一方、ユーザー企業にとってもDX推進に必要な課題整理・要件定義・PDCAサイクルなど、実践的なスキルを習得できる貴重な機会となるでしょう。

DXの「専任化」を目指す

IT人材のリソースをDX推進に投入しようとしても、既存の保守業務で手一杯になっている状況が障壁となるケースは多くあります。既存システムの保守業務との兼任ではなく、できる限りDX分野に注力できる環境を整えることが、円滑なDX人材育成とプロジェクト推進につながるでしょう。

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まとめ

DXは日々進化するデジタル技術や急速に変化する市場・顧客ニーズに対応し、競争優位性を維持するための「継続的な取り組み」です。2025年の崖の脱却においても、レガシーシステムを更新するだけでなく、長期的な運用や変更のしやすさも考慮して進める必要があります。


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この記事の監修者・著者:FPTコンテンツ制作チーム

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