目次
CRMとは

CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)とは、企業が顧客との関係をより良好に築き、長期的な信頼や満足を育むための考え方を指します。
近年ではこの概念が進化し、顧客情報や購買履歴、問い合わせ履歴などを一元管理し、それをもとに営業・マーケティング・カスタマーサポートを最適化するツール全般も「CRM」と呼ばれるようになっています。
つまり、CRMは単なる顧客データベースではなく、顧客一人ひとりの行動やニーズに応じた対応を可能にする、戦略的なビジネス基盤として注目されているのです。
CRMが生まれた背景
CRMが登場する1990年代以前から、その基盤となる技術や考え方は徐々に発展してきました。その後、データベースやインターネットなどの情報システムの登場によってCRMが可能になっただけでなく、従来のマスマーケティングの限界も明らかになりました。
IT普及による顧客データ活用の拡大とOne to Oneの必要性
1990年代後半からインターネットやPC、データベース技術の普及が進む中、企業は初めて膨大な顧客データを効率的に蓄積・活用する基盤を手に入れました。1980年代にはアメリカでSIS(Strategic Information System)やEUC(End User Computing)など、企業の基幹システムにコンピュータの導入が本格的に始まりました。
ITインフラは、従来のマスマーケティングの限界を明らかにしました。個々の顧客にパーソナライズした「One to Oneマーケティング」への転換は、現実的かつ不可欠な戦略となったのです。CRMは、こうした個別対応を実現する手段として、急速に普及していきました。
顧客中心経営への関心の高まりとグローバルな普及
1990年代に入り、米国を中心に「顧客中心経営(Customer-Centric Management)」の重要性が注目され始めました。製品中心ではなく顧客との関係性に価値を見出すこの考え方は、競争が激化する市場環境の中で、長期的な収益性を支える戦略として浸透していきます。
この流れの中で重視されたのが、「顧客ロイヤルティ(Customer Loyalty)」という概念です。単に一度商品を購入してもらうのではなく、継続的な信頼関係を築き、リピート購入や紹介につなげることの経済的価値が、経営の観点から重視されるようになりました。
日本においても、アクセンチュア(旧アンダーセン・コンサルティング)が1998年に『CRM―顧客はそこにいる』を出版したことで、CRMという言葉が一般に知られるようになりました。こうした背景により、顧客ロイヤルティを中心に据えた経営の重要性が広がっていきました。
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お問い合わせCRMとはMA・SFA・ERPの違い
CRMに似た言葉として、MA、SFA、ERPといった用語があります。いずれも、企業活動を効率化する仕組みあるいはシステムを指しますが、異なる意味合いを持ちます。以下では、各用語の意味やCRMとの違いについて説明します。
MAの概要
MA(マーケティングオートメーション)とは、見込み顧客(リード)へのアプローチを自動化・最適化する仕組みです。メール配信、Webサイト上の行動追跡、スコアリングなどを通じて、顧客の興味・関心や購買意欲を可視化し、育成(ナーチャリング)する役割を担います。
例えば、「資料請求後に1週間でフォローメールを送る」「特定のページを複数回閲覧したユーザーに優先度をつけて通知する」といった仕組みが実現できます。
ERPの概要
ERP(Enterprise Resource Planning)とは、ヒトやモノ、カネ、情報など、企業全体の経営資源を統合的に管理するシステムのことです。販売管理、在庫管理、会計、給与計算などの基幹業務を一元化することで、部門間の連携を強化し、業務の効率化や意思決定の迅速化を実現します。
SFAの概要
SFA(Sales Force Automation)とは、営業活動の進捗や内容を可視化・効率化する営業支援ツールを指します。商談状況の管理、顧客との接点履歴、営業目標との比較などを記録・分析することで、営業プロセスの属人化を防ぎ、営業成果の最大化を図ります。
CRMの概要
CRMはよく、他の業務支援ツールであるMA、SFA、ERPと混同されがちですが、それぞれの役割は異なります。MAは“顧客になる前”の関係構築に特化しているのに対して、CRMは“顧客になった後”の関係深化に特化しているという違いがあります。
また、ERPが企業全体の運営管理を対象としているのに対し、CRMは顧客との関係に特化しています。さらに、SFAは商談管理や営業活動の効率化に特化したツールですが、CRMの中核機能として組み込まれていることもあります。
CRMの主な機能

CRMには、顧客情報管理からカスタマーサポート、データ分析までさまざまな機能が搭載されています。いずれの機能も、顧客ロイヤルティを高めるために欠かせません。
顧客情報管理
顧客の名前、連絡先、購買履歴、問い合わせ履歴などを一元的に記録・更新できます。これにより、部門を超えた顧客対応がスムーズになり、情報の断絶や対応ミスを防ぎます。また、管理している顧客情報はデータ分析に役立てることが可能です。
カスタマーサポート
CRMは、顧客からの問い合わせやクレーム、サポート履歴を一元的に管理できる仕組みを備えています。過去のやり取りや対応履歴を参照することで、担当者が変わってもスムーズな対応が可能になり、顧客満足度の向上につながります。
また、問い合わせの分類や優先度設定、対応状況のステータス管理といった機能により、サポート業務の効率化と属人化の防止にも効果があります。チャットやメール、電話といった複数チャネルでの対応を統合し、どの顧客に、どのような対応をしたのかを一目で把握できます。
データ分析
CRMに蓄積された顧客情報や対応履歴、商談データなどを活用することで、売上の推移や案件の進捗状況、対応件数の傾向などを多角的に分析することが可能になります。こうした分析の手法の一つとして、「RFM分析」が広く用いられてきました。RFM分析では、最新購入日(Recency)、購入頻度(Frequency)、購入金額(Monetary)の3つの指標をもとに顧客をランク分けし、優良顧客の抽出やセグメントごとに最適なアプローチ戦略を導き出すことができます。
また、CRMツールによっては、成約確率のスコアリングや離脱予測など、AIによる予測分析機能を備えています。これにより、経験や直感に頼ることなく、データに基づいた意思決定を支援します。
CRMの導入で期待できる効果やメリット
CRMを導入することで、サービスを受ける顧客とシステムを導入した企業の双方にメリットがあります。大きなメリットについて次の3点が挙げられます。
顧客満足度の向上
CRMは、顧客ごとの履歴やニーズに基づいて最適な対応を行う「One to Oneマーケティング」を実現することで、顧客により高い満足感を与えることができます。
例えば、過去の問い合わせや購買履歴に応じて提案内容を変えたり、適切なタイミングでフォローアップを行ったりすることで、顧客は「自分のことを理解してくれている」という実感を持ちやすくなります。
また、対応履歴の共有やスムーズな引き継ぎが可能になることで、顧客がストレスを感じることなくサービスを受けられます。
業務効率化
CRMは、業務の属人化を防ぎ、部門を越えたスムーズな連携を実現することで、組織全体の業務効率化を後押しします。従来、顧客情報は営業、マーケティング、カスタマーサポートなどの部門ごとに管理されており、情報が分断されていました。CRMを導入することで、顧客に関する情報が一元管理され、「誰でも」「いつでも」「正確に」アクセス可能となります。
また、多くのCRMツールには、メール送信やリマインダー通知など、定型業務の自動化機能が備わっており、繰り返し発生する手作業の負担を軽減できます。
優良顧客の育成
CRMを活用することで、一度購入した顧客との関係を継続的に深め、単なる取引相手から企業の価値を理解し支持する「優良顧客」へと育てていくことが可能になります。
顧客の購入履歴や対応内容、関心のある分野などの情報を活用することで、一人ひとりの興味やニーズに合わせた提案やフォローが可能になります。こうした丁寧な対応が、顧客の満足度と信頼を高めることにつながります。これにより、長期的なお付き合いを前提とした顧客関係が築かれ、自然とリピート購入やアップセルへとつながっていきます。
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CRMを活用する際の手順

CRMは、単に導入するだけでは期待される成果を得ることはできません。顧客満足度の向上や業務効率化、売上・利益の拡大といった効果を最大限に引き出すには、以下の5つのポイントを押さえることが重要です。
導入目的の明確化
CRM導入の第一歩は、「どのような成果を目指すのか」という目的を定量的に定めることです。例えば、「顧客満足度を80%以上に引き上げる」「営業の成約率を30%改善する」といった具体的な指標(KPI)を設定し、それを社内で共有します。このように、目的を定めることで導入後の運用方針や評価基準も明確になり、社内の意識統一と定着にもつながります。
課題の洗い出し
目的を明確にしたら、次に自社の業務フローや顧客対応のプロセスを可視化し、どこに課題があるのかを整理します。営業が個人ごとにバラバラに情報を管理していたり、部門間で顧客情報が共有されていなかったりといった現状を把握することで、CRMで解決すべき具体的な改善ポイントが見えてきます。
CRMツール選定
課題に合致したCRMツールを選ぶことは、導入効果を最大限に引き出すための鍵となります。各製品には得意分野や価格帯、サポート体制、ユーザーインターフェースなどに違いがあります。
また、クラウド型かオンプレミス型かといった導入形態の違いも大きな判断材料となるでしょう。このほか、会計ツールやECサイトなど、他の業務システムや外部サービスとの連携性も重要です。
データ分析
CRMを導入した後は、蓄積された顧客データや営業活動データを活用して、継続的に分析を行うことが重要です。売上推移、商談成功率、問い合わせ件数の変化など、定量的なデータをもとに成果を検証し、どの顧客層にどの施策が効果的だったのかを把握します。
分析結果は、営業戦略やマーケティング施策の改善につながるだけでなく、社内でのCRM活用の説得力を高め、継続的な活用を促す材料にもなります。
PDCAサイクルで運用見直し
CRMは導入して終わりではなく、運用のなかで継続的に見直しを加えることが重要です。例えば、「入力項目が多すぎて現場で使われていない」「レポートが活用されていない」などの問題が発生した場合には、設定やルールを柔軟に修正する必要があります。
KPI(重要業績評価指標)を定期的に確認し、成果を測定・分析することで、課題を把握して改善につなげることができます。こうしたPDCAサイクルの実践が、業務の効率化や経営判断の質を高める土台になります。
CRMの活用事例
CRMを重視する企業では、その導入・運用のスタイルもさまざまです。自社で独自のプラットフォームを構築している企業もあれば、Salesforceなどの外部ツールを活用しながら柔軟に展開している企業もあります。以下では、CRMを活用し、抱えていた課題を改善した企業の事例を紹介します。
某金融大手企業のケース
FPTコンサルティングジャパンは、営業やマーケティングなどあらゆる業務でのデジタル活用を可能にするため、SalesforceやAPIマネジメントツール「MuleSoft」を積極的に活用することを推進しています。組織や部署ごとにバラバラに存在していた顧客データをまとめて可視化することで、対応の質が向上し、結果的に顧客満足度の向上につなげることができます。
FPTコンサルティングジャパンが取引した金融大手企業のケースでは、紙ベースの申請が多く、出社しないと業務ができないという課題がありました。コロナ禍による在宅勤務を実現するために、Salesforceの導入とともに、PaaS機能を活用したアプリケーションを開発しました。
これにより、申請をすべて電子化し、プロセスを標準化することに成功しました。顧客側もまた、カスタマーサポートのスムーズな対応を享受でき、結果として顧客満足度の向上につながります。
高島屋ベトナムのケース
高島屋ベトナムは、2016年にベトナム初の店舗「ホーチミン高島屋」を開業・運営した企業です。同社を傘下に収める高島屋は、顧客満足度を向上させるために、心のこもったサービスの提供とトレンドへの柔軟な対応を目標に掲げています。
高島屋ベトナムは国内における急速な小売業の成長にも対応するため、FPTソフトウェア・東芝デジタルソリューションズ株式会社とともに、新しいCRMシステムをローンチしました。このCRMシステムにより、同社のウェブサイトとモバイルアプリケーションから、各顧客に即した情報、サービス、プロモーション、キャンペーンを提供可能となりました。
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CRMに関するよくある質問
既存のシステムからCRMへ、顧客データを移行できますか?
多くのCRMツールでは、ExcelやCSV形式、あるいは既存のSFA・ERPシステムからのデータ移行に対応しています。
移行時には、項目の整合性や重複データの除去といった前処理が必要になるため、ツールベンダーによる支援を受けるとスムーズに進むでしょう。CRMツールの中には、移行アシスタントやマッピング機能が用意されているサービスもあります。
CRMはAIと連携できますか?
近年のCRMには、AIとの連携によって業務効率と顧客理解を深める機能が多数搭載されています。例えば、過去の購買履歴やWebの閲覧行動から、特定の顧客の購買可能性や離反リスクを予測するスコアリング機能、問い合わせ件数の推移や成約率の傾向を分析するダッシュボードなどの機能などが挙げられます。
また、生成AIも活用されており、商談メモや顧客対応履歴をもとに、営業報告書や要約レポートを自動生成したり、カスタマーサポートにおいて自然な対話が可能なチャットボットを実装したりといった用途が広がっています。
まとめ
CRMは、顧客情報を軸に業務の効率化と顧客体験の最適化を支える重要な仕組みです。近年ではAIやクラウドの進化により、中小企業を含めた幅広い業種での導入が進んでいます。単なる情報管理ではなく、顧客との継続的な関係構築を支援する仕組みとして、CRMは企業にとって欠かせない存在になりつつあります。
顧客ロイヤルティの向上や個々のニーズへの対応が重視される今、CRMは企業の競争力を高め、持続的な成長を支える重要な手段となっています。
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