FPGAとは?

FPGA(Field Programmable Gate Array)とは、後から構成を自由に変更できる再構成可能な集積回路を指します。FPGAはその柔軟性から、小規模な組み込み機器に搭載される数千規模の論理ブロックを持つ製品から、スーパーコンピュータやデータセンター向けに開発された数百万規模の論理ブロックを持つ高性能FPGAまで、幅広い規模で展開されています。
代表的な製品としては、Xilinx(現AMD)の「Spartan」シリーズや「Artix」シリーズ、Intel(旧Altera)の「Cyclone」、「Stratix」シリーズなどがあり、用途や性能要求に応じて選択できます。
FPGAの仕組みとは
FPGAは、加法や乗法などの計算を可能にする「論路回路」を大規模化したものです。論理回路がAND素子やOR素子など「ゲート素子」を組み合わせることで複雑な計算を実行可能にするのと同様に、FPGAには複数のゲート素子が組み合わさった小規模な「論理ブロック」が多数敷きつめられています。お互いが配線・接続された論理ブロックを大量に用意することで、複雑な計算にも対応しようとしています。
こうした論理ブロックの実装により、製造時点では特定の機能が決まっていなくても、ユーザーが「ハードウェア記述言語(HDL)」と呼ばれるプログラミング言語を使って、論理ブロックの動作など、回路構成そのものを記述し、書き込むことで目的の機能を実現できます。
FPGAが注目される背景
FPGAは、マイコンやCPUとは異なり、ハードウェアそのものを設計できるため、特定用途に最適化された高速かつ並列な処理が可能です。とくに、私たちが普段慣れ親しんでいる(ノイマン型)コンピュータのような命令逐次実行では対応しきれないリアルタイム性や低遅延が求められる場面で、その利点が顕著に発揮されます。
また、GPUなどの汎用演算装置と比べ、必要な論理回路だけを構成するため無駄な電力消費が少なく、演算効率や省電力性に優れる点も注目されています。
さらに、ASIC(特定用途向け集積回路)と異なり、量産前の試作段階でも比較的容易に回路を構築・修正できるため、仕様変更が想定されるプロジェクトや少量生産において、初期費用や開発期間を抑えることが可能です。論理回路をソフトウェア的に記述し、即座に書き込める柔軟性は、設計変更や試行錯誤を繰り返す開発プロセスにおいて大きな利点となります。
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お問い合わせFPGAに関連して知っておきたい用語

CPU
CPU(Central Processing Unit)は、汎用的な命令を逐次的に実行するプロセッサで、ソフトウェアによって動作を制御します。多様な機能を持つ入力端子や出力端子を備えた完成済みの“ブラックボックス”として機能し、利用者は内部構造に立ち入らずに、ソフトウェアで外部とのやり取りを制御します。
これに対してFPGAは、ユーザー自身がハードウェア記述言語を使って回路構成を設計できる“ホワイトボックス”であり演算や制御の仕組みそのものをカスタマイズ可能です。
GPU
GPU(Graphics Processing Unit)は、画像処理を主目的として開発されたプロセッサで、数百~数千の演算ユニットを搭載し、同一の処理を大量のデータに並行して実行する「並列処理」に長けています。この特性により、機械学習や科学技術計算など、高度な演算を高速に処理する分野での活用が拡大しています。
一方、FPGAもAI処理に対応可能ですが処理を分割し、その工程を“流れ作業”のように順番に処理する「パイプライン処理」によって高効率な推論処理を実現します。GPUと比べて低電力で処理できることは、FPGAを活用する利点だといえます。
CPLD
CPLD(Complex Programmable Logic Device)は、FPGAと同様にプログラマブルロジックデバイス(PLD)の一種で、ユーザーが回路構成を変更できる点が共通しています。ただし、CPLDは構造が比較的シンプルかつ固定的で、回路規模も小さいため、複雑な並列処理や演算処理には向きません。
一方で、電源投入直後から即座に動作可能な特性を持つため組み込み系の制御用途でよく利用されます。
マイコン
マイコン(マイクロコントローラ)は、CPUにメモリ、タイマー、通信機能など周辺機能を内蔵したワンチップの制御用プロセッサです。主に家電製品やセンサー制御など、組み込み機器に広く使われており、低消費電力・低コストが特長です。
FPGAとの違いとして、処理時間の長さが挙げられます。マイコンの場合、プログラムにしたがって順番に処理を進めていくのに対して、FPGAはパイプライン処理による並列化で処理時間を短縮可能です。
DSP
DSP(Digital Signal Processor)は、音声、画像、通信信号などのデジタル信号処理に特化したプロセッサで、高速なフィルタ処理や周波数変換を得意とします。具体的には、アナログ-デジタル変換(ADC)を介して取り込んだ信号をデジタル処理することで、より柔軟で精密な制御が可能になります。
ただし、こうしたDSPが得意とする信号処理も、FPGAに「DSPブロック」と呼ばれる専用の処理機構を搭載することで、同様の機能を構築できます。
ASIC
ASIC(Application Specific Integrated Circuit)は、特定の用途に最適化されたカスタム回路です。スマートフォンの通信処理チップや暗号通貨のマイニング専用チップなど、製品ごとに必要な機能を固定的に実装することで、高レベルの演算性能と電力効率を実現できます。
一方で、ASICは設計から製造までに高額な初期投資と長い開発期間を要するため、量産効果が見込まれる大規模プロジェクトでの採用が一般的です。加えて、FPGAのように後から構成を変更できないため、仕様が完全に固まっていない段階では導入が難しく、設計ミスや要件変更に柔軟に対応できないというリスクがあります。
ASSP
ASSP(Application Specific Standard Product)は、特定の用途向けに設計された汎用ICであり、ネットワークインターフェースや画像処理用チップなどが該当します。ASICのように用途は限定されつつも、幅広い製品に搭載できるよう標準化・量産化されているのが特徴です。
機能はあらかじめ固定されており、ユーザーがハードウェア構成を変更することはできないため、FPGAのような柔軟性はありません。しかし、高性能かつ低コストでの導入が可能で、回路設計や検証の手間を大きく省くことができます。
FPGAのメリット

FPGAのメリットとして、初期投資が少ないことや、省電力であること以外にも次のようなことが挙げられます。
低遅延
FPGAは、ハードウェア回路そのものを構成して処理を実行するため、ソフトウェアの命令解釈やオペレーティングシステムの介在がありません。CPUやマイコンでは、C言語などの高級言語がアセンブリ言語や機械語に変換され、命令を逐次的に実行しますが、こうした段階的な変換や制御の過負荷(オーバーヘッド)が処理の遅延(レイテンシ)を生みます。
一方、FPGAではあらかじめ構成された専用の論理回路が直接信号を処理するため、レイテンシは非常に小さく、リアルタイム応答が求められる用途に強みを発揮します。
自由に回路を書き換えられる
FPGAは出荷後でも内部の回路構成をHDLで自由に書き換え可能なため、設計変更や機能追加に柔軟に対応できます。VerilogなどのHDLを用いて、どの端子を使用して何を制御するか、FFやLUT、クロック、配線などをどのように構成するかを詳細に記述します。
例えば、LEDを光らせる場合、単に「光らせる」と命令するのではなく、「どのタイミングで」、「どのような条件で」、「どのピンに接続されたLEDを制御するか」といった論理回路そのものを構成する必要があります。これにより、プロトタイピング段階での試行錯誤や性能チューニングが可能になるほか、製品出荷後でもFPGAを書き換えて機能の追加やバグの修正が可能になります。
FPGAのデメリット
FPGAの主なデメリットとして挙げられるのが、次のプログラムの難度の高さです。
プログラムの難度が高い
FPGAの開発には、HDLを用いて、論理回路そのものを記述する必要があります。これは、一般的なソフトウェア開発で使用されるC言語やPythonなどの高級言語とは根本的に異なります。
ノイマン型コンピュータのように、抽象化された命令を記述するだけで動作を制御できる仕組みとは異なり、クロック信号に応じてどのようにビットを処理し、どの信号線をどう接続するか、どのタイミングで値を保持するかなど、すべてを明示的に設計する必要があります。このため、アセンブリ言語や機械語よりも高い習得難度が要求され、並列動作やタイミング制約といった独自の思考も求められます。
また、設計後のテスト工程にも独特なハードウェア操作のノウハウが必要とされるため、初心者にとってはハードルが高い開発分野といえるでしょう。論理的に正しくてもタイミングが合わなければ動作しないため、学習や設計における大きな壁となっています。
ただし近年では、「高位合成(HLS: High-Level Synthesis)」と呼ばれる、C/C++ベースでの回路設計手法が広まっていることで、従来のHDLよりも抽象度の高いコードからハードウェアを生成可能になりつつあります。
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ハードウェア設計(PCB/FPGA)FPGAの使用例
FPGAは多様な分野で活用されています。たとえば、AI推論処理に特化したアクセラレータや、金融業界の超低遅延な高速取引(HFT)、高精度な医用画像処理、車載の先進運転支援システム(ADAS)など、リアルタイム性と柔軟な演算処理が求められる用途に最適です。
たとえば、金融分野では、高速取引における注文処理や価格算出の遅延を1マイクロ秒単位で短縮することが競争力に直結します。低遅延という特性を活かし、米国の証券取引所や国際的な大手投資銀行では、実際にFPGAベースの取引システムが導入されています。
また、通信分野では、FPGAは5Gの基地局や光通信機器などの中核を担うハードウェアとして活用されています。大量なデータをリアルタイムで送受信することがFPGAの低遅延性と相性が良いだけでなく、基地局の装置ごとに実装が異なるという難点もFPGAの設計の柔軟性でカバーできます。
FPGAの活用ポイント
FPGAを活用するうえでのポイントは、開発環境や設計方針を含めた戦略的な導入にあります。
まず、初期投資を抑えて試作や小ロットで製品を展開したい場合にFPGAは非常に有効です。ASICのように高額な製造設備を必要とせず、論理回路をソフトウェア的に記述して即座に書き込めるため、設計変更や試行錯誤にも柔軟に対応できます。
また、リアルタイム性を重視する用途において、ソフトウェア処理では実現が難しいタイミング制御や並列処理を、ハードウェアレベルで効率的に実装できるのがFPGAの強みです。そのため、産業機器や通信制御など、瞬時の応答が求められるシーンに適しています。
さらに、一度活用したFPGAを設計資産として再利用できるため、長期的にみると開発効率の大幅な向上が見込めます。
まとめ
FPGAは、ハードウェアレベルでの高速処理や柔軟な設計変更が可能なため、リアルタイム性が求められる分野や少量生産の現場で特に効果を発揮します。開発には一定の学習コストが必要ですが、近年は高位合成ツールの登場で開発のハードルも下がりつつあります。
コストを抑えて試作やカスタマイズを行いたい企業や、特定用途に特化した処理を必要とする開発者にとって、FPGAは有力なソリューションといえるでしょう。
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