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人工知能(AI)はこれまでの空想の領域から現実の技術へと進化し、医療業界を劇的に変えようとしています


この記事では、より良い医療を提供するためにAIがどのように役立つかについて、各ステークホルダーの視点から詳しくご紹介します。

ヘルスケアプロバイダー
病気やウイルスの絶え間ない変異は、ヘルスケアプロバイダーにとって大きな課題です。しかし、AIを活用すれば、診断と治療のプロセスを大幅に迅速化することができます。AIによる画像診断は、より正確に疾患を検出できることが統計的に証明されており、臨床医にとっての有効な診断情報源であると見なされています[1]。

先頃、ワシントンD.C.のある病院の研究者グループが、機械学習(ML)と自然言語処理(NLP)を活用し、子どもの遺伝子疾患を診断するアプリケーションを開発しました。このアプリケーションは、医師から乳児の顔写真を受け取り、特別なアルゴリズムを使用して顔の主要部位や鼻の大きさなどを解析し、遺伝子疾患があるかどうかを判断するというものです[2]。

医療業界における高い労働負荷は、医療の質に悪影響を及ぼします。現場の医師は、医療の仕事以外に、管理業務の負担も負っています。米国医師会によると、医師が患者の情報を電子健康記録(EHR)に入力するのに費やす時間は、労働時間の30%に上ると推定されています。自然言語処理(NLP)は、そのような作業負荷から医師を解放するとともに、EHRの情報を素早く抽出して、医師が治療により専念する時間を抽出することを可能にします[3]。

医療事務部門
病院の事務部門は、医療施設の運営を維持するための根本的な機能を担っています。臨床での事例に比べて、医療の管理面にAIを導入するのはあまり魅力的に思えないかもしれません。しかし、AIには、事務部門の業務をシステム化し、効率化する力があります。例えば、NLPは、患者症例の要約や記録の作成業務のデジタル化など、管理ドキュメントに関わるワークフローの自動化に役立ちます。AIを活用すれば、管理スタッフは手間のかかる単調な仕事から解放され、価値の高い仕事により多くの時間を割くことが可能になります。

AIが活用できる病院運営のもう1つの分野に、病床の管理があります。病床の使用率は、医療の質を左右します。ベッドの空きがないために、患者を何時間も待たせたり、手術を延期したりすることは許されません。MLは、関連データを活用し、入院期間、新規入院者数、総ベッド数を予測し、最適なベッド配置を保証します。英国の国民保健サービスが開発した「COVID-19 Capacity Planning and System」は、英国の4病院で試験的に導入され、ICUの病床と人工呼吸器の需要予測を支援しています。

製薬会社
製薬会社はすでにAIの分野に足を踏み入れています。製薬会社の創薬プロセスの加速化に、AIは特に役立ちます。合成医薬品バンクや理論的医薬品バンクの膨大なリポジトリから見込みのある製品を特定するのは気が遠くなる作業です。しかし現在では、AIアルゴリズムによって、試験前の段階で医薬品の効果を予測できます。2019年、あるカナダの企業が、AIを使用してウィルソン病の新薬候補を特定したことで、いくつかの報道機関から大きな反響がありました[4]。「AIが初めて発見した治療候補」と称賛されたこの治療法は、製薬業界におけるAI応用の道を切り開きました。

AIはまた、製薬企業に現存する医薬品カタログの新たな応用にも貢献します。AIは、膨大なデータセットから、人間の研究者では見つけられないパターンを発見する能力を備えているため、医薬品と病気との関係を関連付けたり、すでに市場に出ている医薬品の新たな用途を特定したりするのに役立ちます。

医療保険会社
AIは、医療保険の問題を解決することもできます。 医療保険会社には保険金請求の正確性を検証する責任がありますが、この業務には通常、数百人の従業員が関わっているため、人的エラーが発生する可能性があります。マッキンゼーの調査によると、提出された請求の80%は潜在的に不正確または不正であることが明らかになっています[5]。これはつまり、熟練したスタッフが大量の請求を検証しなければならないことを意味します。この複雑な業務にAIを組み込めば、アルゴリズムを利用して保険金請求の異常を数秒で検出できるようになります。

おわりに
MLやNLPなどの技術は、依然としてある程度、人間による監視を要することを医療機関は認識する必要があります。ハーバード・ビジネス・レビューの調査によると、医師が最終的な判断に責任を負っていれば、人々は医療AIに肯定的であるということがわかりました[6]。したがって、AIが提案した治療や診断は、常に資格を持つ医師が評価しなければなりません。それに加えて、テクノロジーを有効的に活用し、高い成果を挙げるために、医療機関はITインフラストラクチャーに積極的に投資する必要があります。

いかなる技術革新も、AIによってある程度の仕事が奪われるという懸念が起きることには注意が必要です。一方で、新技術によって新たな雇用が創出されるという可能性を歴史が証明していることも事実です。AIは間もなく、ルールに基づく日常的な仕事をすべて引き受けるようになり、人間より優れたパフォーマンスを発揮するようになるでしょう。しかし同時に、AIは十分なデジタルスキルを持つ人々に新たな雇用機会を創出します。医療機関は、AI導入の初期段階から従業員を関与させ、スキル向上を図ることで、このパラダイムシフトに備える必要があります。

医療業界は変革の時を迎えています。AIを用いて医療現場のワークフローを強化するとともに、病院の運営を改善し、患者のケアを向上させる機会は無数にあります。

By Nguyen Dang Ha Phuong

 

参考文献(英語サイト)

[1] Artificial Intelligence Is Being Used To Diagnose Disease And Design New Drugs. Forbes

[2] The Algorithm Will See You Now: How AI is Helping Doctors Diagnose and Treat Patients. PBS

[3] Using AI to Improve Electronic Health Records. Harvard Business Review

[4] Medicine by machine: Is A.I. the cure for the world’s ailing drug industry? Fortune

[5] Artificial intelligence in health insurance: Smart claims management with self-learning software. McKinsey

[6] AI Can Outperform Doctors. So Why Don’t Patients Trust It? Harvard Business Review