SAPとは?

SAPとは、会計・販売・在庫・人事など企業の基幹業務を一元管理するERPを提供する、ドイツ発のソフトウェア企業およびその製品群の総称です。1972年の設立以来、世界中の大企業がSAPの製品を導入しています。
とくに、最新の主力製品「SAP S/4HANA」は、リアルタイム分析に強みを持つ次世代型ERPとして注目されており、クラウド時代の業務基盤として多くの企業で導入が進んでいます。
ERPとは?
ERP(企業資源計画)は、企業の調達・生産・販売・会計・人事など、部門ごとに分散していた業務データを一元管理し、全体最適を実現する統合型の業務システムです。もともとは1970年代のMRP(資材所要量計画)に端を発し、1990年代に業務の標準化と効率化を目指して登場しました。
近年ではクラウド型ERPの普及や、生成AIの活用による業務支援、リアルタイム分析などの高度な機能が加わり、ERPは単なる業務基盤ではなく、企業の意思決定や変革を支える戦略的なプラットフォームへと進化しています。
SAPが導入されるようになった背景
SAPは創業以来、企業の業務効率化とデータ管理を目的とした統合ソリューションを提供してきました。なかでもSAPが開発したERPは、販売、購買、生産、会計、人事といった企業活動を一元的に管理できる点が評価され、世界中の企業に導入が広がりました。
日本では1992年にSAPジャパンが設立され、グローバル基準への対応や内部統制強化が求められる中、大手企業を中心に採用が加速しました。こうした実績と信頼性が、SAPがERP市場で導入されるようになった大きな背景といえます。
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SAP導入時のメリット

ERPは多くのベンダーから提供されていますが、その中でもSAPは、グローバル対応力や業務領域の広さ、内部統制への対応力に優れる点から、大企業や多国籍企業で採用されるケースが多く見られます。以下では、SAP導入によって企業にもたらされる主なメリットを紹介します。
多くの企業からの信頼性の向上
SAPは、190ヵ国以上・40万社超の企業に導入されている、世界最大級のERPベンダーです。多言語・多通貨・各国の会計制度への対応力に加え、業種別のベストプラクティスを備えており、業務プロセスの標準化や法制度対応に強みがあります。
また、米国の企業改革法(SOX法)や日本版SOX法(J-SOX法)などの規制にも柔軟に対応できる設計となっており、ガバナンス強化を重視する企業にとって安心して採用できる選択肢といえます。
人的コストの削減
SAPは、受注・出荷・請求・会計といった業務プロセスを一貫して管理できるため、部門間の情報伝達がスムーズになり、手作業や二重入力の削減につながります。これにより、業務の効率化だけでなく、人的ミスや確認作業の負担も軽減されます。
加えて、SAP Fioriベースの直感的なUI(ユーザーインターフェース)が採用されており、現場担当者でも扱いやすく、教育コストや定着までの時間を抑えることができます。
統制力の強化
SAPには、権限管理や承認フロー、操作ログ記録などの統制機能が標準搭載されており、内部統制を支える仕組みが整っています。財務会計(FI)や管理会計(CO)、購買管理(MM)などの各業務モジュールがリアルタイムに連携することで、情報の整合性が保たれ、不正や入力ミスの抑止にもつながります。
また、S/4HANA以降では、中央財務(Central Finance)やグループ経営管理(Group Reporting)といったモジュールも加わり、企業グループ全体の情報統合と統制が可能となりました。こうした仕組みは、コンプライアンス対応やガバナンス強化を重視する企業にとって大きな支援となります。
SAP導入時のデメリット
SAPは高度なERP製品である一方、導入・運用にあたってはそれ相応の負荷やハードルも存在します。とくに、初期投資の大きさや、専任人材の確保、業務見直しの必要性などは、導入にあたっての注意点として把握しておかないといけません。
導入の初期コストが高い
SAPは財務、会計、購買、生産、人事など幅広い業務を包括的に管理できるERPですが、その包括性ゆえに初期導入には多大なコストがかかります。とくにSAP S/4HANAでは、業務要件定義、データ移行、アドオン開発にかかる工数が膨らみ、数千万円〜数億円規模になることもあります。従来のSAP ERPからの移行に苦慮し、導入を断念した企業も実在します。
さらに、外部コンサルタントに依存することで、予算超過のリスクも無視できません。ただし、テンプレート利用や段階的導入により、リスクとコストを抑えるアプローチも広がっており、慎重な導入計画がカギとなります。
操作できる人材の確保
SAPは多機能かつ専門性が高いため、運用に習熟した人材の確保が大きな課題です。とくにS/4HANAではSAP FioriベースのUIやリアルタイム分析など新要素への理解が求められ、従来以上に教育コストが増大します。社内にSAPの知識が蓄積されていない場合、導入効果が限定的になるばかりか、トラブル対応にも支障が出ます。
また、市場でもIT人材の需給はひっ迫しており、即戦力の採用は困難です。このため、外部パートナーの協力や、eラーニング、OJTなどを活用した社内教育体制の整備が中長期的な安定運用のカギとなります。
SAPへの理解度
SAPは業務の標準化と最適化を重視した構造を持ち、SAP FioriベースのUIなど操作性の向上も進んでいます。しかし、従来のレガシーシステムに慣れ親しんだ現場にとっては、操作手順や画面構成が一新されるため、初めは使いにくいと感じられることも少なくありません。とくに、独自業務に最適化されたシステムからの移行では、業務フロー自体の再設計が求められるため、混乱や反発が生じやすくなります。
このような課題に対処するには、導入前の丁寧な説明やデモを通じたイメージ共有、現場向けの操作研修、運用開始後の継続的なサポートなどを通じて、理解と納得を深めていくことが重要です。
SAPの主なサービス
SAPは、企業のあらゆる業務領域をカバーする多数のモジュールを提供しており、それぞれが連携することで、業務全体の統合と効率化を実現しています。財務会計を担当する「FI」、管理会計の「CO」、購買管理の「MM」、販売管理の「SD」、生産管理の「PP」、在庫管理の「IM」、品質管理の「QM」、設備保全の「PM」、人事管理の「HCM」、プロジェクト管理を担う「PS」など、業種や業務に応じて柔軟に組み合わせることができます。
これらのモジュールは、単に業務ごとの機能を提供するだけでなく、共通のデータ基盤を通じてリアルタイムに情報を連携・更新するため、業務横断的な整合性を常に保つことが可能です。
またS/4HANA世代では、中央財務(Central Finance)やグループ経営管理(Group Reporting)、高度な税務・法令対応を支援するモジュールなどが追加され、複数拠点・複数法人をまたぐ経営統合やコンプライアンス対応にも柔軟に対応できる構成となっています。
SAPが提供するERPの種類
SAPは一種類のERPではなく、企業規模や用途に応じて複数のERP製品を展開しています。以下に、代表的なERP製品を紹介します。
• SAP S/4HANA
SAPのフラッグシップERPで、大企業やグローバル企業向けに設計されています。インメモリデータベース「SAP HANA」上で稼働し、リアルタイム処理、SAP Fioriベースの直感的なUI、クラウド・オンプレ両対応などの特徴を持ちます。導入形態としては、S/4HANA Cloudやオンプレミス版があり、業種別テンプレートやベストプラクティスが多数用意されています。
• AP ERP 6.0(ECC)
2000年代から広く普及した旧世代のSAP ERPで、オンプレミス型が主流でした。モジュール構造やプロセスはS/4HANAに引き継がれていますが、HANA非対応・リアルタイム分析機能なしなどの制限があり、SAPは2027年末で標準サポートを終了予定です。現在は多くの企業がS/4HANAへの移行を進めています。
SAPマネージドサービスの概要と強み、選ばれる理由を動画でご紹介しています
SAP導入を成功させるポイント

SAPの導入は単なるシステムの導入ではなく、全社レベルの業務変革プロジェクトです。導入効果を最大化するためには、初期段階での業務要件の整理、部門横断での合意形成、ユーザー教育など、いくつかの重要な取り組みが必要です。以下に、導入成功のための主なポイントを紹介します。
既存業務の見直しをする
SAP導入の第一歩は、既存の業務プロセスを徹底的に見直すことです。これは単なる業務改善や要件定義ではなく、これまで長年使い続けてきたレガシーシステムや属人的な業務の構造を根本から見直す機会でもあります。
SAPでは、「Fit to Standard(標準化の推進)」という考え方に基づき、標準機能に業務を合わせるアプローチが推奨されています。これにより、過度なカスタマイズを抑え、保守性や拡張性を高めることができます。また、業務プロセスの可視化を通じて、非効率な手順や重複作業を排除し、将来的な制度変更やテクノロジーの進化にも柔軟に対応できる体制を構築することが重要です。
会社全体で利用する
SAPは企業の基幹業務全体を統合するシステムである以上、特定部門のみで導入・運用することは現実的ではありません。販売、購買、会計、人事といった複数部門のデータや業務プロセスが相互に連携するため、全社的な取り組みとして導入を進めることが必須です。
とくに重要なのは、経営層の関与とリーダーシップです。SAP導入は単なるIT刷新ではなく、内部統制の強化や意思決定の迅速化といったガバナンス課題の解決にも直結する取り組みであるため、経営視点での全体構想や優先順位の判断が求められます。
もちろん、ミドルマネジメント層や現場層の理解も不可欠であり、事前にヒアリングを実施することで、SAPに対する理解や期待度を高めることができます。
SAPへの習熟度を上げる
SAPのような大規模な業務システムを定着させるには、単に操作方法を覚えるだけでは不十分です。導入時から計画的な教育・サポート・啓蒙活動を組み合わせた取り組みが必要となります。
まず教育面では、ユーザーの役割や業務内容に応じて、操作マニュアルやeラーニング、実務に即した研修などを段階的に用意し、「使える」状態を着実に作っていくことが重要です。また、サポート体制も欠かせません。導入初期は操作ミスや問い合わせが集中するため、専用の問い合わせ窓口やヘルプデスクの設置、FAQやガイドの整備が必要です。
このほか、なぜこのシステムに変わるのか、どうすれば業務が効率化されるのかといった「導入の背景と意義」を周知し、現場の理解と納得感を醸成することが、習熟度を高める土台となります。
SAP 2027年問題とは?
SAP 2027年問題とは、旧来のERPシステムである SAP ERP 6.0のサポート終了により、すべてのユーザーがSAP S/4HANAへの移行を迫られる状況を指します。
SAPは当初、SAP ERP 6.0の標準サポートを2025年末までとアナウンスしていましたが、多くの企業で移行準備が遅れていたことを受け、2020年にサポート終了を2027年末まで延長しました。もっとも、保守料金を支払うことで、2030年末までサポートを継続して受けることは可能です。また、2031年以降の延長オプションの準備があるとSAPは公表しています。
とはいえ、SAP ERP 6.0のサポートが恒久的に続くとは考えられないだけでなく、移行プロジェクトには時間を要します。そのため、企業にとって時間的猶予というよりも「最後の警告」と見るべき段階かもしれません。
2025年の崖とは?
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で指摘された日本企業のIT課題を指す言葉です。多くの企業が老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムを使い続けており、2025年までに刷新が進まないと、国全体で年間12兆円規模の経済損失が発生する可能性があると警鐘を鳴らしています。
SAPが当初定めたSAP ERP 6.0のサポート終了時期とも一致しているため、SAPの文脈ではSAP S/4HANAへの移行を「2025年の崖」と位置づけられています。
SAP 2027年問題への対処方法
SAP ERP 6.0の標準サポートが2027年末で終了することを受け、企業は早急に次の一手を検討する必要があります。主な対応策は、SAP S/4HANAへの移行です。移行には、既存システムを活かす「コンバージョン方式」と、業務をゼロベースで再設計する「リビルド方式」があります。業務の複雑性や将来の拡張性を踏まえて、最適な移行戦略を選定することが重要です。
一方、他社が提供するクラウド型ERPを採用する動きも増えています。たとえば、Oracle ERP Cloud や Microsoft Dynamics 365 などは、段階的な導入が可能で、初期費用を抑えられる点が評価されています。S/4HANAもクラウド展開は可能ですが、オンプレミスからの移行にはコストや人材の課題も伴います。
SAP 2027年問題は、単なる製品サポートの終了ではなく、企業にとって基幹系DXの転換点です。移行そのものを目的とせず、将来の競争力を見据えた全社的な構想が求められています。
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まとめ
SAPは、企業の中核を担うERPとして豊富な実績と機能を持ち、S/4HANAを中心とする次世代製品では、リアルタイム性やクラウド拡張性といった新たな価値を提供しています。一方で、導入にはコストや体制整備といったハードルも伴い、旧製品のサポート終了も含めて早期の意思決定が求められます。
近年は、生成AIやSaaSの普及により、従来の延命的なシステム更新では不十分な時代になりつつあります。ERP刷新を単なるシステム更改にとどめず、業務改革・全社的なIT構想の一環として捉えることが、SAP導入を成功させる最大のカギといえるでしょう。
関連リンク
- SAPサービス
https://fptsoftware.jp/services/it-services/sap - FPTの SAP アプリケーションマネージドサービスの紹介
https://fptsoftware.jp/resource-center/connect/connect-sap-application-managed-service - お客さまの声:株式会社 日立ハイテク - ToBeプロセスを志向した業務改革をSAP S/4HANA Public Cloudで実現
https://fptsoftware.jp/resource-center/customer-testimonials/hitachi-hightech-case-study