「ローコード」と言われる分野の製品は以前からあるが、2021年に入りメディアなどで紹介されるケースが急激に増えている。何故今ローコードが注目を集めているのか。ローコードに関連するサービスを提供しているFPTソフトウェアジャパンの小野内隆弘氏に、日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ 上席研究員の大和田尚孝が聞いた。
※本記事は日経 xTECH Special「DXパートナーに変貌を遂げたFPT」に掲載されたものを転載したものです
DX推進の手段としても注目
――ローコードとは、どんな技術ですか。
ビジュアルベースでプログラムを作ることができる技術です。プログラミング言語を習得する必要がありませんし、短期で身に付けることができます。そのため、高度なエンジニアに開発を依頼する必要がなく、ある程度の部分をユーザー企業自ら作ることが可能です。新型コロナウイルス感染症の流行や、DX元年と言われる現在の状況を背景に注目度が増しています。
――技術自体は以前からあったと思いますが、なぜ今注目されるようになったのですか。
コロナ禍でDXを進める必要性が増した今、開発やオペレーションの在り方を変え、さらなるコスト削減が求められるようになりました。また、不確実性が高まる一方、Time to Marketの視点でスピードも求められてきており、アジャイルでDXを進めるための手段としてローコードを検討する企業が増えています。従来は、目新しさからローコードに興味を持つ企業が多かった印象ですが、今は状況が変わりましたね。
もう一つ、レガシーな仕組みを維持する技術を持った人材が高齢化している、という問題があります。「2025年の崖」と言われる現象ですね。その結果、高度な人材の取り合いが起きており、そういった人材をDXに回すことができません。そのため、もっと人材を確保しやすいプラットフォームが求められており、その有力な候補の一つがローコードになっています。
数百万円で利用可能
――引き合いは増えていますか。
はい。ローコードについてのウェブセミナーを開催したところ非常に反響がありました。従来のローコードのサービスは、初期費用やライセンスにより数千万円単位の投資が必要で、敷居が高い部分がありました。FPTのサービスは、より気軽に利用していただけるよう数百万円程度に設定しています。トライアルレベルであれば、無料でお使いいただけるメニューもご用意しています。
――企業はローコードを主にどのような分野に利用しているのでしょうか。
多いのがプラットフォームのマイグレーションですね。例えばSAPの2025年問題に対応するようなケースでは、SAPのバージョンアップに合わせてDXを行い、データを集約・活用しようとする企業が多いです。ただ、これをすべてSAP上で行おうとするとライセンスコストが非常に上がってしまいます。そのため、周辺システムをローコードで構築することで、コスト最適化が図れます。
ほかにも、Notesなどのアプリケーションのモダナイゼーションにもよく利用されていますし、モバイルアプリを試しにローコードで作ってみたいというケースも増えてきていますね。
開発はアジャイル、ハイブリッド型が増えていく
――開発時間が短くなるとビジネスもスピードアップしやすくなりますね。
その通りです。従来型の開発は、ある程度ゴールを見極めてウォーターフォールで行っていました。しかし、DXの場合は、ユーザー自身が何を作っていいか具体的に分からないケースも多くあります。短期間で成果物を作り、実際にビジネスシーンで利用しながら、改善を繰り返す必要があるんです。そのためにはローコード&アジャイル開発の組み合わせがぴったりなんですね。
ただ、基幹系のような部分を作るのにローコードが最適とは言えない部分もあります。従来手法との使い分けや、両手法のハイブリッドなど、目的のシステムに合った手法を選ぶ必要があると思います。
――どんどん正解が分かりにくくなっていく状況において、アジャイルな手法を実現しやすいローコードが時代の要請にもマッチするようになっているのですね。
そうですね、非常にマッチすると思います。これからは基本的にアジャイルもしくはハイブリッドという形が増えるのではないでしょうか。我々は、同時にオフショアも活用できるデリバリーモデル、コミュニケーションモデルも作っています。
でもツールの良さだけでゴールに着地できるかというとそんなことはなくて、デリバリーモデルもあわせて考え、効果を最大化していく必要があるからです
。
――魔法の杖ではないということですね。ローコードにおいてもFPTのベトナムにおけるリソースが利用できるのですか。
はい、Product OwnerやProxy Product Ownerの機能に日本人もしくは日本語ができるスタッフをそろえ、ベトナムのリソースをリモートアジャイルという形で利用できるようなデリバリーモデルを有しています。
またソーシング戦略の観点で、DXの場合、プロジェクト終了後も社内にノウハウを蓄積する目的で「インソースでやりたい」とおっしゃるユーザーが多いんです。それに対応するため、例えば最初はベトナムへのアウトソースのような形でスタートし、最終的にはその人材をそのままクライアントの現地法人の社員として雇用いただく、といった形がとれるようなBOTモデルも対応しています。
3億円削減に成功した事例も
――ローコードにはいろいろなツールがあると思います。選定のポイントは何でしょうか。
ツールだけでなく、それを提供するパートナーもあわせて選ぶことが必要になりますね。誤解されがちなのですが、ローコードとはいえ、全くプログラミングしなくていいのか、ITの素養がなくていいのか、というとそんなことはありません。ローコードの経験があったり、技術を知っている人材を沢山抱えているパートナーの方が、より早く開発ができますし、より早くスケールできます。FPTにはオフショアのリソース中心に多くの人材がいますので開発も早いですし、全体の開発コストを抑え込めます。
1ユーザーライセンス当たりの価格が決して安くない製品が多いので、ライセンス価格も考えるべきポイントですね。どこから調達するかによっても価格が変わります。FPTの場合、我々がライセンスを持ち、SaaS的なご提供も行っていますので、お客様にとってはご利用いただきやすいと思います。
――ローコードの活用が上手くいったケースはありますか。
ある自動車メーカーではオフショア、85人の体制でローコードを利用し、1ファンクション当たりの生産性が2年間で倍になりました。航空業界でも多くの事例があります。開発コストを抑えることを目的にローコードを利用したところ、10億円の予算に対して3億円の削減に成功し、開発期間も3割短縮できたケースもあります。
――航空会社は特に経営環境が厳しい状況にあるので、3割減の威力はとても大きいですね。
コロナが従来のやり方を変えなくてはいけないことを気づかせてくれた部分はあります。今は、従来手法を使おうとすると投資案件を無くしたり見送ったりしなくてはならないような状況にあります。でもこの厳しい状況により、中国よりベトナムの方が安くオフショアができるし、ウォーターフォールでなくアジャイルにすれば簡単に始められるので開発を継続できる、と気づいた企業は多いと感じています。
――今後の目標を教えてください。
現在のローコードの開発者はオフショアを入れて1300人程度です。これを今後3年間で4000人規模まで増やしたいと考えています。FPTでは、ファンダメンタルな成長として30%、DXなど戦略的な領域は50~60%の成長を目指していますので、それに見合う規模で成長したいと考えていますね。
――日本のIT企業で、それほど急ピッチで事業規模を拡大できるところは少ないのではないかと思います。
ローコードは、最初の部分では優秀な人材が少数いればいいですが、開発が進んで規模が大きくなると少人数では対応できなくなります。どんどんスケールしないとコストメリットが発揮できないので、それではローコードを使う意味がありません。我々は十分なリソースを確保してスケールメリットを出し、日本のDXに貢献したいと考えています。
私たちFPTはこれまでも、システム開発や基幹系システムのモダナイゼーションなど、日本企業のニーズ拡大に合わせて、短期間で事業規模を拡大してきました。「今このぐらいの引き合いがあるとすると、数年後はこの程度まで需要が伸びるだろう」と予測し、それに合わせてベトナムでの技術者育成の計画を立てます。スピードと規模の両面で日本企業のニーズに応えられるのが我々の強みです。ローコードによる個別システムの高速開発といった局所的な側面でのアプローチにとどまらず、日本企業のソーシング戦略全体を支援していきたいと考えています。
関連ページ
FPT Partnership with OutSystems
https://fptsoftware.jp/about-us/partner-network/outsystems/
FPTのローコードによる超高速開発ソリューション
https://fptsoftware.jp/services/it-services/lowcode-nocode