この記事でわかること

  • Claudeを活用したAIネイティブ開発を、実際のプロジェクトでどのように実践したのかがわかります
  • 要件定義から設計、実装、テストまで、生成AIを主要な開発工程にどのように活用したのかを知ることができます
  • 生成AIの活用とガバナンスを両立するための工夫やポイントがわかります


はじめに

FPTソフトウェアは、駐日ベトナム大使館向けに、日本在住のベトナム人研究者・専門家の知見と、ベトナム国内の科学技術・イノベーションに関する課題をつなぐプラットフォーム「V-S.T.I.D」を開発しました。本プロジェクトでは、要件定義から設計、実装、テストまでの主要な開発工程に、当社の「AIネイティブ開発プロセス」を適用しました。

AnthropicのAIモデル「Claude Sonnet 4.5」をClaude CodeおよびGitHub Copilotを通じて活用し、各工程の作業を支援。本プロジェクトでは、約70画面のシステムを2026年1月から3月の3カ月で本番稼働させ、当初の計画より18日早くリリースしました。関連資料に基づく試算では、工数を20%削減しています。

本コラムでは、AIネイティブ開発プロセスにおけるClaudeの活用方法、AIに入力した情報の範囲、人が担った確認・判断についてご紹介します。


背景

ベトナム共産党政治局は2024年12月22日に採択した決議第57号(57-NQ/TW)において、科学技術の発展、イノベーション、国家のデジタルトランスフォーメーションを推進する方針を示しています。こうした背景のもと、日本の大学や企業で活躍するベトナム人研究者・専門家の知見を、ベトナム国内の省庁・自治体・企業が抱える課題の解決につなげる基盤が求められていました。

この課題に対応するため、駐日ベトナム大使館は専門家ネットワーク基盤「V-S.T.I.D」の構築を決定し、FPTソフトウェアが開発を担当しました。V-S.T.I.Dは専門家情報の集約に加え、知見の検索や課題とのマッチング、関係者間の交流を支える「デジタルインフラ」として位置づけられています。主な機能は次のとおりです。

  • 専門家プロフィールの掲載と、検索語の意味を踏まえたセマンティック検索
  • 研究者情報データベース「researchmap」からの論文・研究業績情報の自動取り込み
  • ベトナム国内の課題と専門家の知見をマッチングするAI機能
  • 組織情報、イベント情報、政策情報の掲載と専門家フォーラム

開発では、短期間でのシステム構築と、複雑な業務ルールや開発中の要件変更への対応を両立する必要がありました。対象は約70画面で、AWS上のマイクロサービス構成を採用。ReactJS、NestJS、Keycloak、OpenSearch、RabbitMQ、MongoDB、PostgreSQL、Terraformを使用し、10人の開発チームで、2026年1月から3月の3カ月でフェーズ1の本番稼働を目指しました。

こうした条件に対応するため、当社は主要な開発工程にAIを組み込む「AIネイティブ開発プロセス」を採用しました。


ソリューション

当社は「AIネイティブ開発プロセス」のもと、要件定義、UI/UXデザイン、データベース設計、バックエンド開発、フロントエンド開発、テストの6工程すべてにClaude Sonnet 4.5を適用しました。エンジニアは用途に応じてClaude CodeとGitHub Copilotを使い分け、いずれもClaude Sonnet 4.5を使用。共通のテンプレートと指示ファイルを用いることで、成果物の品質のばらつきを抑え、書式や記述ルールの統一を図りました。

V-S.T.I.D 開発ワークフローとClaudeの適用範囲

ポイントは、AIに「自由に書かせない」ことです。成果物の構造や作成ルールをあらかじめ定め、各工程で次の5ステップを共通の手順として適用しました。

  • テンプレートの作成:
    要件書、基本設計書・詳細設計書、テスト観点表など、成果物ごとに構造を定義
  • 指示ファイルの作成:
    コーディング規約、ソースコードの構成ルール、ドキュメントの記述ルールを明文化
  • Claudeによる生成:
    入力資料とプロンプトファイルをもとに、ドキュメント、コード、テストスクリプトを生成
  • Claudeによるセルフレビュー:
    チェックリストに沿って、生成した成果物をClaude自身が点検
  • 人による最終レビュー:
    要件定義担当者(BA)、設計者、開発者、テスト担当者が内容を確認・修正し、責任を持って確定

工程ごとの適用内容は次のとおりです。

工程 主な入力 Claudeの役割 併用ツール 人の役割
要件定義 大使館の説明資料・打ち合わせメモ、researchmapの公開データ 業務上の対象・概念(業務オブジェクト)の抽出、機能一覧・画面一覧・画面詳細・機能詳細の生成 ― 大使館との要件確認、最終レビュー
UI/UXデザイン 要件書 複数の画面案の生成、ワイヤーフレーム・プロトタイプのたたき台 Figma デザインの仕上げ、大使館との確認
データベース設計・実装 業務オブジェクトの詳細 ER図・コレクションの設計、基本設計書・詳細設計書、データベース関連コードの生成 ― 設計・コードレビュー
バックエンド開発(API) 画面詳細・機能詳細・データベース仕様 API設計書、NestJSによるマイクロサービスのコード、フロントエンド向けAPI仕様の生成 Keycloak 設計・コードレビュー
フロントエンド開発 画面詳細・API仕様・Figmaのデザイン 設計書、ReactJSコード、テスト向け画面拡張仕様の生成 Builder.io 設計・コードレビュー
テスト(単体・結合) 機能詳細・設計書・画面拡張仕様 テスト観点・テストケース・自動テストスクリプト・テストレポートの生成、設計変更に伴うテスト資産の更新支援 Playwright テスト結果の確認、モンキーテスト

AIに入力した情報の範囲とセキュリティ

外交機関である大使館の情報を適切に取り扱うため、AIに入力する情報の範囲をプロジェクト開始時に大使館と合意し、開発期間中もその範囲内で運用しました。入力対象は、システムの要件資料や設計書、ソースコード、テスト資産など、V-S.T.I.Dの開発に関する資料に限定しました。

区分 内容
AIに入力した情報 システムの目的・業務要件・画面要件を説明する資料、要件確認の打ち合わせメモ、researchmap(国立研究開発法人科学技術振興機構が運営する研究者情報データベース)のAPIから取得した公開データ、プロジェクト内で作成した設計書・ソースコード・テスト資産
AIに入力していない情報 大使館の外交業務に関する文書・機密情報、登録専門家や大使館職員の個人情報、認証情報・アクセスキー、本番環境のデータ
利用環境 Claude CodeおよびGitHub Copilotを、当社が契約する法人向けの利用環境で使用。入力データをモデルの学習に使用しない契約条件のもとで運用
品質・セキュリティ基準 WCAG 2.1の適合レベルAAを目標とするアクセシビリティ要件、OWASP関連のセキュリティ指針、12-Factor App、Clean Code、SOLID原則を指示ファイルに反映。リリース前にペネトレーションテストを実施

本プロジェクトでは、Claudeを設計・実装・テストなどの開発作業の効率化と品質向上を支援するために活用しました。大使館の外交業務に関する情報を分析する目的では利用していません。


得られた成果

フェーズ1は2026年3月に本番稼働し、大使館から高い評価をいただきました。主な成果は次のとおりです。
※総工数の削減率は、AIを利用しない過去の開発案件の実績工数を比較基準とし、「(比較基準工数-本プロジェクトの実績工数)÷比較基準工数」で算出しています。リリース時期は当初計画との比較です。

指標 比較基準・当初計画 AIネイティブ開発の実績・方法 改善結果
総工数 AIを利用しない過去案件の実績工数:40人月 32人月 20%削減(8人月)
フェーズ1リリース 当初計画:2026年3月末 計画より18日早くリリース 18日前倒し
開発コスト 従来型の開発 ― 16%削減
フォーマット・コーディング規約違反 手書きコード 指示ファイルに基づく生成コード 90%削減
工程別生産性 ― ― 20~30%向上
開発規模・体制 ― 約70画面、10人、3カ月 ―

対象は約70画面のシステムで、開発チームは10人、開発期間は2026年1月から3月の3カ月でした。
工程別の工数削減率は、開発工程で30%(約3.9人月)、設計・テスト・要件定義ではそれぞれ25%でした。一方、リリース・本番移行とプロジェクト管理では、AIによる工数削減の効果は限定的でした。

数値に表れにくい効果も得られました。指示ファイルでルールを定義してから成果物を生成することで、ドキュメントやコードの記述をチーム全体で統一でき、ロジックや作業上のミスに起因する不具合も減少しました。また、設計変更時には、Claudeを活用して詳細設計の差分を検出し、関連するテスト観点・テストケース・テストスクリプトを更新。開発中の要件変更に対応しながら、予定したスケジュールでリリースできました。

一方、今後に向けた課題も明らかになりました。AIの出力にはばらつきがあり、プロジェクトの要件や意図に合わせた確認・修正が必要です。また、AIや新しい開発プロセスに不慣れなメンバーには習熟期間が必要で、トークン使用量と利用コストの管理も欠かせません。これらを、今後のプロジェクトに向けた改善事項として整理しています。


大使館とともに進めたAI活用

本プロジェクトでは、開発チームに加え、大使館の担当者もClaudeを活用しました。当社は、Claudeの使い方と、AIを活用した要件文書の作成方法について研修を実施。発注者と開発者が共通のフォーマットで要件を共有できる環境を整えました。

要件書の作成・更新

大使館の担当者は、新たな機能要望や変更要望を、Claudeを使って所定のフォーマットに沿った要件文書にまとめました。開発チームはその文書を要件定義の入力資料として活用できるため、要望の確認や文書化に伴うやり取りを削減できました。

議事録の要約

大使館と当社の定例会議では、打ち合わせの内容をClaudeで要約し、決定事項、要件変更、対応事項を当日中に双方で共有しました。認識のずれを早期に確認・解消することで、要件変更に伴う手戻りの抑制につながりました。

これらの利用は、いずれもV-S.T.I.Dの開発・改善に関する文書を対象としています。大使館の外交業務に関する文書、機密情報、登録専門家の個人情報は、Claudeへの入力対象外としました。本番稼働後も、大使館側では、システム改善要望の文書化と、開発・改善に関する会議議事録の要約に用途を限定してClaudeを利用しています。Claudeは開発・改善に関する支援に利用しており、専門家検索やマッチングなどの本番機能には利用していません。


期待される価値

  • 公共機関におけるAIネイティブ開発の活用:
    AIに入力する情報の範囲や利用環境、レビュー手順をあらかじめ定めることで、機密情報を扱う公共機関向けのシステム開発でも、生成AIを活用した開発の効率化が期待できます。
  • 短納期・要件変更の多い案件への対応力:
    テンプレートと指示ファイルを再利用可能な資産として整備することで、設計変更に伴うコードやテスト資産の更新を支援し、変更への対応を効率化できます。
  • 発注者と開発者の共通言語づくり:
    お客さまと開発チームが共通のフォーマットで要件を共有することで、要件確認に伴うやり取りや認識のずれを減らせます。
  • 品質基準を生成段階から反映:
    アクセシビリティやセキュリティのルールを指示ファイルに組み込むことで、成果物の品質のばらつきを抑えられることが期待されます。基準への適合は、人によるレビューとテストで確認します。

今後の展開

V-S.T.I.Dではフェーズ2で専門家フォーラムと利用者向けの招待機能を拡充する予定です。将来的には、米国・欧州など、世界各地のベトナム人研究者ネットワークへの拡張も視野に入れています。

当社は本プロジェクトで整備したテンプレート・指示ファイル・チェックリストを標準資産として体系化し、「AIネイティブ開発プロセス」を日本のお客さまの新規開発案件にも展開していきます。あわせて、AI出力の安定化に向けた改善、メンバーの習熟を支援するプログラムの整備、トークン使用量と利用コストの最適化を進めます。


まとめ

FPTソフトウェアは、駐日ベトナム大使館向けの「V-S.T.I.D」の開発において、主要な開発工程にClaudeを活用する「AIネイティブ開発プロセス」を適用しました。約70画面のシステムを3カ月で本番稼働させ、当初の計画より18日早いリリースを実現しました。関連資料に基づく試算では、工数20%削減、コーディング規約違反90%削減という結果が得られています。

取り組みの鍵となったのは、AIに入力する情報の範囲を明確にし、テンプレートと指示ファイルで成果物の構造や作成ルールを定め、最終的な確認と判断を人が担うことです。FPTソフトウェアは、このAIネイティブ開発プロセスを、日本のお客さまのシステム開発にも展開していきます。

本プロジェクトについて、駐日ベトナム社会主義共和国特命全権大使のファム クアン ヒエウ(Pham Quang Hieu)氏から、次のコメントをいただいています。
「FPTが先進的なAI技術を活用し、開発期間を短縮するとともに、V-STIDプラットフォームにおける知識の検索・集約・活用能力を向上させたことを高く評価しています。本ソリューションは、ユーザー体験を改善するだけでなく、ベトナム人専門家および科学者コミュニティの知識をつなぎ、広く共有することにも貢献しています。」


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この記事の監修者:FPTコンテンツ制作チーム

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