この記事でわかること

  • Fit to StandardはERP導入で業務を標準機能に合わせ、低コストで導入できる手法であると理解できます
  • 従来のFit & Gapとの違いや課題から、DXに適した導入手法である理由を把握できます
  • メリットやデメリット、成功ポイントを通じて、業務見直しや製品選定の重要性を整理できます


Fit to Standardとは何か

Fit to Standardとは何か

Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)とは、ERPなどのパッケージソフトを導入する際のアプローチ手法の1つで、業務をパッケージソフトの標準機能に合わせる考え方を指します。従来のパッケージソフト導入では、既存の業務に合わせてカスタマイズやアドオン開発を行うことが一般的でした。

一方、Fit to Standardでは、パッケージソフトに備わっている標準機能を最大限に活用することを前提とし、カスタマイズやアドオン開発を必要最小限に抑えながら、業務そのものをパッケージソフトに合わせていきます。

パッケージソフトとは何か

ここで、Fit to Standardと関連する用語である「パッケージソフト」について解説します。パッケージソフトとは、特定の業務向けに必要な機能をあらかじめ標準搭載したソフトウェアを指し、ゼロからITシステムを開発する「スクラッチ開発」と対比されます。

代表的なパッケージソフトとして、ERP(基幹業務システム)やCRM(顧客管理システム)、会計システム、勤怠管理システムなどが挙げられます。なかでもFit to Standardは、ERP導入の文脈で使用されることが多くあります。

Fit & Gapとの違い

Fit to StandardとFit & Gapの違い

Fit to Standardとしばしば比較されるのが、Fit & Gapです。Fit & Gap(フィット&ギャップ)とは、パッケージソフトを導入する際に、既存業務とパッケージソフトのあいだにあるギャップを分析すること、あるいはその手法を指します。通常、ギャップを分析した後は、そのギャップをカスタマイズやアドオン開発によって補うことで自社に適したITシステムを構築していきます。

なお、Fit & Gapは、上記のようなパッケージソフトの導入アプローチ全般を指す場合もあります。

Fit to StandardとFit & Gapの違いを簡単に整理すると、前者は「業務をパッケージソフトの標準機能に合わせる」アプローチ手法であり、後者は「パッケージソフトを既存の業務に合わせる」アプローチ手法といえます。


Fit & Gapを導入する際の課題

従来から用いられているFit & Gapには、下記のような課題があると指摘されています。

業務に対する理解が浅いと導入効果が薄れる

Fit & Gapによるパッケージソフト導入では、業務に対する理解が浅いまま進めてしまうと、十分な導入効果を得られなくなる可能性があります。基本的に、Fit & Gapの分析作業は、業務内容を十分に理解したうえで行う必要があります。しかし実際のところ、分析作業を担当する人物が、必ずしも業務のプロセスやルールなどの詳細まで把握しているとは限りません。

例えば、企業の情シス部門はITや製品に関する知識を持っている一方で、各部門の詳細な実態までは把握できていないケースも少なくありません。本来は現場部門と十分に連携しながら進めるべきですが、スケジュールなどの都合から、十分なヒアリングが行えない場合もあります。仮に業務に対する理解が浅いまま作業を進めてしまうと、必要な機能の見落としや、不適切なアドオン開発につながる可能性があります。特に、業務が属人化・ブラックボックス化している場合に、こうした問題が発生しやすい傾向があります。

導入に時間やコストがかかる

Fit & Gapでは、既存業務の調査やギャップ分析、カスタマイズ、アドオン開発などを行う必要があるため、導入までに相応の時間とコストがかかります。そのため、いつから本格稼働できるのかの見通しが立てにくくなり、万が一プロジェクトが失敗した場合の損失も大きくなりやすいでしょう。

ITシステムが複雑化しやすい

Fit & Gapは柔軟な対応が可能である一方、カスタマイズやアドオン開発が増えるほどITシステムが複雑化しやすくなります。その結果、保守・運用の負荷が増え、バージョンアップやITシステム刷新の効率も低下します。


Fit to Standardが注目されている背景

Fit to Standardが注目を集める背景には、主にDXの必要性の高まりがあります。2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」では、日本企業のITシステムは、過度な改修や機能追加の積み重ねによって複雑化・ブラックボックス化しており、これがDX推進の妨げになっていると指摘しています。

この問題の背景の1つとして挙げられるのが、カスタマイズやアドオン開発を前提としたFit & Gapによるパッケージソフト導入です。こうした背景から、Fit to Standardが、DX時代に適したアプローチとして注目を集めています。

※参考:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」


Fit to Standardの導入メリット5つ

1. 短期間・低コストで導入できる

Fit to Standardでは、パッケージソフトの標準機能をベースに導入を進めるため、カスタマイズやアドオン開発を最小限に抑えることができます。結果として、短期間での導入が可能となり、導入コストや運用・保守コストも削減しやすくなります。

また、この短期間・低コストで導入できるということは、ビジネス環境の変化に対応しやすいということでもあります。ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代において、これは大きなメリットといえるでしょう。

2. シンプルな構成になる

Fit to Standardでは、カスタマイズやアドオン開発を最小限に抑えるため、結果としてシンプルな構成になります。これによって、保守・運用負荷の軽減や拡張性の向上などにつながります。

3. 常に最新の機能・バージョンを利用できる

Fit to Standardでは、業務をパッケージソフトの標準機能に合わせるため、ソフトウェアの最新機能やバージョンがリリースされた際も比較的スムーズに適用でき、迅速に利用を開始できます。

一方、Fit & Gapによるパッケージソフト導入では、一部をアドオン開発している分、最新機能やバージョンがリリースされても即座に適用することは容易ではありません。アドオン部分との相性や、プログラム更新時の影響などを確認する必要があるためです。

4. ベストプラクティスを利用できる

Fit to Standardでは、導入後にパッケージソフトの標準機能を活用することになります。標準機能には、多くの企業で培われた業務ノウハウや成功事例が反映されているため、業務品質の向上や効率化が期待できます。

5. 業務の標準化につながる

Fit to Standardでは、業務をパッケージソフトの標準機能に合わせるため、結果として業務の標準化につながります。業務が標準化されれば、品質が一定水準以上に保てるうえ、ミスの削減も期待できます。また、特定の社員に依存する業務が減り、結果として業務の属人化やブラックボックス化を防ぐことにつながります。さらに、業務をパッケージソフトの標準機能に合わせることは、自社の業務やITシステムを世界標準に近づけることでもあります。そのため、海外進出や海外企業との業務連携を進めやすくなるでしょう。


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Fit to Standardの導入を成功させるポイント

Fit to Standardでパッケージソフトを導入する際、成功のポイントとして以下の3つが挙げられます。

1. 適切な製品の選定

Fit to Standardでは、導入する製品の選定が非常に重要です。業務をパッケージソフトの標準機能に合わせるというアプローチとはいえ、どの製品を選んでもよいというわけではありません。むしろ業務を標準機能に合わせるアプローチであるからこそ、自社の業務に適合しやすい製品を選定す

適合性の低い製品を選定してしまうと、業務とのギャップが大きくなり、結果として追加コストの発生や、スムーズな運用の妨げにつながる恐れがあります。そのため、自社の業務内容を十分に把握したうえで、先行事例を参考にしたり、専門家に相談したりしながら、最適な製品を選定することが重要です。

2. 業務を可能な限りシンプルにする

パッケージソフトに業務を合わせるためには、業務自体をシンプルにすることが重要です。業務を可能な限りシンプルにすることで、導入時の作業量が最小限に抑えられ、適合性も高まるでしょう。また、業務をシンプルにすることは、パッケージソフト導入の観点だけでなく、業務プロセスの効率化やコスト削減などの観点でも大きな効果が期待できます。

3. 必要に応じてノーコード・ローコードを活用する

Fit to Standardでは標準機能の活用を前提としますが、場合によってはアドオン開発が必要になるケースもあるため、必要に応じて、ノーコードやローコードでの開発が可能な製品を選ぶことも有効です。ノーコード・ローコードであれば、ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作でスムーズに開発作業を行えるため、作業工数の軽減に役立ちます。


Fit to Standardの導入デメリット3つ

1. 標準機能でカバーできない業務もある

Fit to Standardでは、パッケージソフトに備わっている標準機能をベースとして導入を進めますが、必ずしもすべての業務を標準機能だけでカバーできるとは限りません。標準機能でカバーできない業務がある場合、追加開発や業務変更が必要になる可能性があります。

2. 業務担当者の負担が増える

Fit to Standardでは、業務をパッケージソフトに合わせて変更する必要があるうえ、通常業務を続けながら導入プロセスにも対応しなければならないため、現場の担当者には一時的に大きな負担がかかります。

現場の理解を得ないまま無理に導入プロセスを進めてしまうと、反発の声が挙がることもあり、それはプロジェクト推進の大きな障壁となり得るでしょう。導入の目的やメリットを丁寧に説明し、さらに業務担当者の意見を取り入れながら進めることが重要です。

3. 業務担当者の生産性やモチベーションが低下しやすい

Fit to Standardでは、業務の取り組み方が変更となるため、業務担当者が新しい手順や操作に慣れるまでは生産性が低下しやすく、心理的なストレスからモチベーションの低下を招く恐れもあります。


Fit to Standardの導入成功事例

Fit to Standardの導入成功事例

伊藤忠商事

伊藤忠商事では、以前からSAPのERPを利用しており、国内拠点用と海外拠点用の大きく2つのプラットフォームに分けて運用を行っていました。しかし、海外拠点用プラットフォームは、長年にわたるアドオン開発によって複雑化しており、柔軟な改修や機能追加が難しい状態となっていました。その結果、当初は営業から経理まで商社ビジネスのすべてをサポートする前提であったものの、実際には会計業務での利用に限定されていました。

そこで同社は、Fit to Standardの考え方を取り入れつつ、新たなERP製品「SAP S/4HANA」への移行を推進しました。同製品の標準機能をベースにITシステムを構築することで、過度なアドオン開発を抑制しました。その結果、シンプルで安定性が高く、将来的な機能拡張にも対応しやすい基盤の構築を実現しました。

日立ハイテク

日立ハイテクでは、以前からSAPのERPを利用していました。しかし、複数ある海外拠点では、オンプレミス型ERPに多くのアドオンを組み合わせて運用していたため、運用負荷の増大やバージョンアップ対応の非効率化が課題となっていました。

そこで同社は、Fit to Standardの考え方を取り入れつつ、新たなERP製品SAP S/4HANAへの移行を推進しました。本社で採用したのはSAP S/4HANA Private Cloud、海外拠点で採用したのはSAP S/4HANA Public Cloudです。海外拠点でPublic Cloudを採用した理由は、標準機能をベースとした運用を前提とするERPであり、ロールアウトをスムーズに進めやすいと考えたためです。まず、シナリオやコンフィグを固め、それをテンプレート化することで、拠点ごとの個別対応を極力抑えながらロールアウトを進めました。

さらに、現場部門との対話も重視しました。業務の変更に対する不安や抵抗感に配慮しながら、Fit to Standardの考え方を段階的に浸透させていきました。その結果、短期間でのロールアウトを実現するとともに、長期的な運用負荷の軽減やバージョンアップ対応の効率化も達成しました。

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まとめ

Fit to Standardとは、パッケージソフトを導入する際のアプローチ手法の1つで、業務をパッケージソフトの標準機能に合わせる考え方を指します。従来から用いられていたFit & Gapのようにカスタマイズやアドオン開発を前提としないため、短期間・低コストで導入が可能となります。また、シンプルな構成にできる点や、最新の機能・バージョンを利用しやすい点などもメリットとして挙げられます。

一方で、現行業務の見直しが必要になるため、現場に負担が生じる可能性がある点には注意が必要です。

DX推進やITシステム刷新への早急な対応が求められる現在、Fit to Standardは、今後さらに重要性が高まっていく導入アプローチといえるでしょう。


FPT

この記事の監修者・著者:FPTコンテンツ制作チーム

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