※本記事は日経BP「DXアクセラレート2024、デジタル活用の勘所」に掲載された記事を転載したものです


オフショア開発をはじめとしたアウトソーシング事業で急成長を続けるベトナムIT最大手のFPTソフトウェア(以下、FPT)。近年は多くの日本企業が、高い技術力、豊富なリソース、そしてコストなどを評価し、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のパートナーとして選んでいる。

そのうちの1社が竹中工務店だ。同社は2021年11月にデジタル変革の土台となる中核システム「建設デジタルプラットフォーム」の運用を開始した。

図:デジタル変革のためのプラットフォーム

建設デジタルプラットフォームには、営業から維持保全までの各建設プロセスや、人事・経理などを含めた自社の全てのデータを蓄積し、BI(ビジネスインテリジェンス)やAI(人工知能)で活用できるようにする方針だ。

竹中工務店は2030年を目指して、本年より業務のデジタル化を本格的に実施し、その結果生まれる新たなデータを、建設デジタルプラットフォームに蓄積する計画を立てている。このデータには、同社が長年に渡り注力しているBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のデータも含んでいる。

BIMは建築部材や設備などのオブジェクトを登録し、その集合体としてコンピューター上に現実と同じ建物を再現するものだ。

図:特許第7005871号(2022) BIMモデル検査支援方法及びBIMモデル検査支援システム

BIMを使うことで、建物を建設する前に工期やコストなどをシミュレートできる。建設業界におけるDXの鍵を握る重要な取り組みと言える。

竹中工務店はこのBIMで作ったモデルに、建設工事の進捗データや環境情報などを組み合わせ、実際の建物をサイバー空間上にリアルタイムに再現する「デジタルツイン」の構築を目指している。デジタルツインが完成すれば、建設前のシミュレーションから、建設中の工程管理、完成後の建物管理まで、デジタル上で行えるようになる。

これらの様々なDXの取り組みの中で、FPTは主要なベンダーの1つとして、特にBIMに関する開発に関わっている。竹中工務店の池田氏は、「日本の建築法規への対応に強いベンダーや、エレベーター関連のシステムに強いベンダーなど様々な企業に協力を依頼している。そのうちの1社として、FPTのプラットフォーム構築の実力には強い信頼と期待がある」と話す。

建設デジタルプラットフォームに今後どのようなデータを蓄積し、どう活用していくかについてもFPTから様々な提案があるという。「多くの提案を出してくれるし、修正を求めた場合も、粘り強くへこたれない。顧客に寄り添う姿勢は素晴らしいと感じる」(池田氏)。


きっかけは現FPTジャパン副社長の飛び込み営業

池田 英美 氏

竹中工務店
設計本部DX総括部長
池田 英美 氏

竹中工務店とFPTの付き合いは、FPTジャパンホールディングスの現副社長であるホアン氏の飛び込み営業からはじまった。池田氏は「3年ほど前に、ホアンさんがアポなしで当社にきた。建設のDXでは当社が日本で一番進んでいて、池田という人物が責任者だと耳にした、ということだった」と振り返る。

池田氏はその日、出張で会社を不在にしていた。後日、ホアン氏が置いていった資料を見て、FPTの規模の大きさや実績に驚き、コンタクトを取ったという。「そこでBIMなど様々なシステムの開発を提案してもらい、お付き合いが始まった」(池田氏)。

BIMは、その構築のみを手掛けるベンダーがいるくらい、高い専門性が必要とされる分野だ。BIMの構築をFPTに依頼した理由について池田氏は「BIMのベンダーは、BIMモデルを作ることに特化していて、その情報をデータベース化することは得意ではない。その逆も同様だ。両方をバランス良くやるには、高い技術力や、顧客に寄り添う姿勢が求められる。FPTにはそれがあった」と話す。

FPTとの取り引きが始まって以来、池田氏はベトナムへの視察を複数回行っている。ベトナムの印象については「職場のエネルギーが凄い。就業人口が若いということもあるが、何か新しいことを成し遂げる力や、繰り返し挑戦する力を感じる」と語る。