※本記事は日経BP「DXアクセラレート2024、デジタル活用の勘所」に掲載された記事を転載したものです


ベトナムに進出する日本企業のDXを支援

FPTは、ベトナムに進出している日本企業が、現地でDXを推進する際のパートナーとしても多くの実績を残している。日本製鉄グループのベトナム現地法人であるNippon Steel Spiral Pipe Vietnam(以下、NPV)は、FPTをパートナーにDXに取り組む1社だ。

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NPVでは、橋脚など大型の構造体の基礎に使われる長尺のパイプを生産している。ベトナム国内に加え、ODA(政府開発援助)案件で多く使われているという。創業は2010年だ。

同社がFPTに構築を依頼したのは、パイプの生産管理システムだ。

図:akaMES

同システムは出荷管理やコスト管理などの機能も備えている。2021年1月に開発をはじめ、2022年3月から本格運用を開始した。

従来のシステムは、コスト管理システムを基に、アドオンで生産管理に関する様々な機能を追加したものだった。アドオンが増えていくにつれ、使い勝手の悪さやトラブルの増加、中身のブラックボックス化などが表面化し、問題になったため、会社全体のシステム刷新に踏み切った。

新システムは、ベトナムの商習慣に対応し、使い手の意見を十分反映するため、実務を担当しているベトナム人社員が中心となって要件を決めた。紙で進めていた業務をシステム化するなど、従来システムにはない機能も多数追加したという。

ベンダーの選定についてNPVの波多野氏は「親会社の東南アジア支店のIT部門からFPTを紹介してもらった。これだけ大きなシステムを一括で担えるベンダーが限られている中で、直接打ち合わせをして感触が良かったことが発注の決め手になった」と振り返る。


予想を遥かに下回る短納期を実現

波多野 浩司 氏

Nippon Steel Spiral Pipe Vietnam
Production General Manager
波多野 浩司 氏

システムの構築をはじめる前に、NPVはFPTの開発スタッフに対し、1か月間の生産現場の視察を依頼した。波多野氏はその理由を「実力は申し分ないだろうとは思っていたが、製造業の業務や我々の価値観を理解してもらう前に構築に取り掛かるのは怖かった」と説明する。

この間のFPTの開発スタッフの動きを見た結果、「非常に実力があるのが分かったし、業務理解も早かったため、とても安心した」(波多野氏)。実際の開発に入っても、プロジェクトはスムーズに進んだという。

NPVとしては元々、システムの構築には3年程を要すると見ていたという。しかし、FPTが提出した計画は完成まで8カ月間となっており、「非常に驚いた」(波多野氏)。実際は新型コロナウイルスの流行の影響で予定よりも工期が伸びたものの、1年2か月でプロジェクトを終えることに成功した。

開発で唯一苦労したのが、いろいろな部署が絡む業務のシステム化だ。波多野氏は「ベトナム人は非常に集中力があり、目の前の仕事に真剣に取り組む。その裏返しで、他部署の仕事を見ていない、関心がない、というケースが多い。そのため当初は、社員の立場によって話すことに食い違いがあり、FPTを混乱させてしまった」と語る。この課題も、社員の中からキーマンを任命して権限を与えることで解決したという。

新システムの稼働により、多くの業務が効率化した。それに加えて、「スタッフ自らが要件を決めてシステムを作ったことが、モチベーションアップにつながっていると感じる。社員同士が、お互いがどのように働いているかを理解するきっかけになったのも、今後にとって非常に大きい」(波多野氏)。

波多野氏はFPTについて「こちらの話をよく聞いて、議論を重ねてくれる姿勢があった。それが、いい提案をいただくことや、優れたシステムの構築につながったと感じる」と語る。

DXの進め方は企業によって様々だ。企業がパートナーに期待する要素もそれぞれだろう。ただ共通する点もある。例えば、顧客の話に耳を傾け、顧客が抱える課題や目指す目標を理解したうえで、解決策を提示する姿勢だ。言い換えると「顧客に寄り添う」ことである。

変革は対話から始まる。率直な議論ができるパートナーと巡り会えるかどうかが、企業におけるDXの成否を左右することになりそうだ。